浮気なボーイ

□事件file2
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「ちょっ! ピピお前!ちょっ!ちょいちょい!!!」

下から焦るシャチの声が聞こえるけど、飛び降りちゃったものは仕方がない。だって、止まれないんだもん。

ちょっと走馬灯みたいなの見えてきたけど、シャチならちゃんとキャッチしてくれるって、私信じてる!

「シャンブルズ」

でも、私をしっかりキャッチしたのは望んでいた人物ではなかった。

「くくっ、危ないところだったなァ?」

「ローさん!ナイスキャッチです!」

厭らしい笑みで此方を見下ろすソイツは、そう、私が大嫌いで彼が大好きな隈男。

それを認識した瞬間、鳥肌がぶわわっとたった。

「っ…!ちょっとシャチ!なんで助けてくんないの!こんな怪しい奴に私受け止めさせて!あのまま、落下してたら死んでた!!」

コイツに借りを作るなんて、ありえない!

キッと隈男を睨み上げると、何が楽しいのかクツクツと喉を鳴らしているのだ。

コイツ…完全に勝ち誇った顔してる…!

「くくくっ、気の強ェ女だな。シャチ、てめェの手におえんのか?」

「私がシャチの面倒見てあげてるの!今だって、大切な幼なじみの危機を感じ取って一番最短距離かつ最短時間で此処に駆けつけた!」

未だに私の身体に巻きついていた、少し黒い腕を無理矢理剥ぎ取ってシャチ隣に立つ。

「バカシャチ!アンタまたこの胡散臭い隈男にそそのかされてたの?」

「てめっ!ローさんの何処が胡散臭いんだよ!」

「隈!厭らしい笑い方!至る所にある刺青!趣味悪い帽子!」

「あれ、そういや ピピ 、いつもの帽子は?」

「家に忘れたの!そして話を逸らすな!!ちょっと隈男!こっち見てにやにやするのやめて!」

私がそう言うと、慌てて隈男に謝るシャチ。
そしてそれを面白そうに見下げる隈男。
それを見て、苛々する私。

「シャチ、こいつはお前の女じゃねェのか?」

「 ピピは幼なじみっす!昔から、気だけは強くて…!」

「 随分俺は嫌われてるようだな…くくっ」

その挑発的な目…
そして何故かその姿を尊敬の眼差しで見ているシャチ。
可笑しい、シャチ絶対催眠術かなんかかけられてるよ!
だってこの怪しい男の何処に、尊敬出来る部分があるというのだ。

…駄目だ、隈男を見ていると冷静さが全くといっていいほどになくなる。
私はこんなに嫌な性格だっただろうか。


パシンッ!!


興奮しすぎて空回りしていた思考を戻す為に、一度自分の頬を叩く。

シャチと隈男が此方を見ているが気にしない。

リセットリセット…
平常心平常心…

ほら、落ち着いてきた…
いつものお淑やかな私に…


「いよっし!!」


「…」

私のいきなりの行動に驚いたのか、隈男はあの厭らしい笑みも忘れ、固まっている。

シャチは呆れたような、でもどこか優しい、私の知ってる顔で苦笑いしていて、少し安心した。


「シャチ、朝ご飯作っておいたから、食べてね」

自称必殺 ピピスマイルをかまして、二人を背に家へと歩いた。

後ろから盛大な笑い声がしたけど、聞こえなかったことにしよう。

此処で熱くなったら負けだ…
シャチを海賊になんて、させてたまるかってんですよ!

そう心の中でファイティングポーズをしながら、私は家路を歩いた。



(くはっ、シャチなんだあの女は…!くくっ!)
(お、幼なじみ…っす)

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