NOVEL
□恋人が寝かせてくれない
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「くーろーたーんー」
「………」
「ねー黒たんってばー」
「………」
「黒ぽんー」
「………」
「黒様ー」
「………」
「黒わんこー」
「………」
「ねー黒ろん寝ちゃったの「あーもううるせぇな!!」
「あ、起きたー」
へにゃり、と笑う堀鐔学園化学教師ことファイは、寮の部屋が隣同士の堀鐔学園体育教師こと黒鋼の部屋に来ていた。
…来ていたというよりは、忍び込んでいた、というほうが正しいのだが。
「…お前、今何時だと思ってんだよ」
「夜中の2時ー」
「………」
あまりにも悪気のない化学教師に、黒鋼は起こる気も失せ、半ば呆れつつ言葉を続けた。
「…どこから入ってきた?」
玄関は閉めてあったはず…とふと考えると、ある考えに思い至った。
「まさか…」
「うん、開いてたから窓から入ってきたー」
「手前は学校だけでなく人の部屋も窓から移動するのかよ!」
「えー、だってチャイム鳴らしちゃ悪いと思ったんだもーん」
「いや、窓から入ってこられる方がよっぽど迷惑だ」
「それに非常事態だったんだよ――」
「あ?」
ファイの言ういつもの非常事態とは、それほどのものではない。
むしろ、はっきり言ってどうでもいいことばかりである。
黒鋼はどうせ今回も大袈裟に言うんだろ、と思いながらファイの言葉を待った。
「…あのねー、何か眠れなかったのー」
「……そんなことか…」
予想を見事に裏切ってくれなかったファイの言葉に、黒鋼はため息をつきながら布団の中へ戻ろうとした。が、
それはファイによって止められてしまった。
「…黒様と一緒に……寝たいなー…なんて…」
と、少し頬を染めながら上目遣いに言うものだから。
…黒鋼はいうことを聞いてやるしか出来なくなってしまった。
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