【side:フレン】

□【001】
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違う場所、違う心情、おかれた状況。

それでも互いに「無力」を痛感するには相応に等しく、僕らは怒りという形でしか感情を吐露出来なかった。
そしてそれは、幼くからも肩を並べ合わせた彼に向けられ、彼もまた、同じように僕へ向ける怒りのまま、拳を交えたように思う。


あの頃の僕らには、本当の意味で「背中合わせ」なんて言葉が存在しなかった。


僕は父のようにはならない。

―…無言の帰宅を果たした父のようにはならないと、そう何度もひとりごち呟き、同時に自分への戒めを強めた。
反して彼の無鉄砲さと自由さには、どこか羨望にも似た憧憬を抱きながらも、比例し募る苛立ちは僕が抱える感傷をいっそう逆撫でていく。

互いに「大切なものを守りたい」一心は同じでも、どうしてこうも違うのか。
何故、君はそんなに節度の無い態度で過ごすのか。

口にはしなくとも、僕の目は語っていたことだろう。同時に、今ほどではないにしろ短気さに磨きがかかっていたように思う。
なんとも恥ずかしい話だ。


君が騎士団に背を向けた日。
不思議と、焦燥感はひとつも抱かなかった。

僕らの道は違えたように見えても、きっとまた再び、同じ夢について語り合える。
そう信じ、君の背を見送った。その情景は今でも鮮明で、僕の双眸に焼き付いて離れない。


僕は騎士だ。この右手に握る剣は、僕の大切な人達を守るための剣だ。

今度こそ、大切な人を二度と失わないため。この剣を掲げ、誓いを立てよう。
君と次に出会うその時に、自分の信念に決して恥じぬように。

 

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