捏造回顧録
□捏造だZ
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二人は一旦屯所に戻った。
山崎は、廊下で土方と擦れ違った。
「山崎、ご苦労だった。あの捕まえた奴、もしかしたら大穴かも知れねえ」
土方はそう言うと、瞳孔全開の目で真っ直ぐ前を見つめ、足早に去って行った。
初めて見た土方のその表情に、山崎は背中に寒気が走った。
「山崎ぃ」
どこからともなく、突然自分を呼ぶ声が聞こえ、山崎は驚いて肩をすくめた。
声のする方を見ると、外に面した廊下の一番日当たりの良いところで沖田がアイマスクを着けて寝転がっていた。
「なんだ…。沖田さん、そんな所で昼寝ですか?」
「まぁな」
沖田はその姿勢のまま、アイマスクだけをずらして答えた。
山崎は沖田の側で腰を下ろした。
「なぁ、山崎。一番酷ぇ拷問って何だろうな?もう堪えらんねえ、吐いちまおうって思えるようなやつ」
「はい?そんなこと考えてるんですか?」
「…野郎の顔付き、見たろぃ」
「土方さんの、ですか?」
「あぁ。何すんだろうな」
このやりとりで山崎は、あの捕らえた男が土方の手によって拷問を受けるのだと察した。
そしてやっぱり此処に居ることは、遊びじゃないことも確信した。
仕方のないこととは言え、土方が自分の手を汚して、人を虐げる覚悟までしたのだ。
山崎とて半端な覚悟で江戸に出て来たわけではない。
どんなことがあろうと土方に付いて行こうと覚悟をしたのだから、そんな事で一々感傷に浸っている場合ではない。
「土方の野郎…」
沖田も少し悲しげで、悔しそうな顔をして呟いた。
(そうだよね。なんだかんだ言って総くんも土方さんのことはそれなりに慕ってたもんね。理由はどうあれ人を虐げる土方さんの姿なんて見たくないよね…でも、仕方ないんだよ。オレ達、そういう立場なんだよ…)
山崎は自分にも言い聞かせるように、言葉には出せなかったが沖田を諭す言葉を思い浮かべていた。
「いいなぁ。俺も色々試してぇなぁ…」
山崎の思いは露知らず、沖田はそう続けた。
こいつは少し人の痛みを知れば良いと山崎は強く思った。
数時間して、土方は額に汗をうっすら浮かべて監察方の部屋、つまり山崎の部屋を訪れた。
「山崎、急ぎだ。斉藤つれてここ洗ってくれ」
そう言って土方は山崎に紙を渡すと、そのまままた足早にどこかへ向かった。
「斎藤さん、行きましょう」
二人は私服の着流しに着替え、腰に刀を差して出掛けた。