捏造回顧録
□捏造回顧録21
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隊服を着た近藤は、気分を良くして早速帯刀したまま見回りに出て行った。
土方は室内をうろうろしていた。
「はさみ知らねえか?」
「はさみ探してうろうろしてたんですかぃ?」
「まぁな…で、はさみはどこにあんだ」
「なんか切るならそこに刀が」
沖田は荷物の箱を指さした。
「おまえ斬ってやろうか?」
「はさみでですかぃ?」
そう言って沖田は懐からはさみを取り出し土方に刃先を向けて差し出した。
「ぅわっ、あぶね!あんなら有るって最初から言えよ!ったく…とっつぁんと言い総悟と言いドラ○もんみてえな奴だ…」
沖田からはさみを受け取ると土方は退室し、洗面所に向かった。
洗面所の鏡の前に立つと、後ろで結っている髪の束を掴んで持ち上げ、そのままざっくりとはさみを入れた。
(アイツが居ない今、自分で髪を結うのも面倒で仕方ねえ)
髪の束は左手ではらりと揺れた。
結っていた紐が落ち、髪が広がった。
左手の髪の束を置き、鏡の前で顔の角度を変えながら、少しずつはさみを入れて整えていく。
はさみを置き、手櫛でバサバサと髪全体を馴染ませて鏡を覗く。
「ま、こんなもんだろ」
妥協ではなくそこそこの納得で、一言呟き顔を洗った。
「総悟、はさみありがとな」
沖田の背後からそう声を掛け、はさみをそっと差し出した。沖田ははさみに手を伸ばしながら振り返り土方を見た。沖田は目を丸くした。
「…」
「なんか言えよ」
「土方さん、あんた、髪を売って旦那へのプレゼントの懐中時計を買いに行く嫁の話、知ってます?」
「は?」
「とてもじゃねえけどあんたの髪が金に換わるとは思えやせん」
「何の話だ…」
二人を見ていた原田が関心を示した。
「土方、それ良いな!これから俺達洋服着るんだし、髷なんて流行んねえよな!俺もこんな邪魔なもん切っちまおう!」
原田も沖田にはさみを借り、洗面所へ向かった。
数分後、原田が戻ってきた。
「え…?何で丸坊主…?」
「いや…ちょっと失敗しちまって」
原田は顔を真っ赤にしながら右手で剃りたての頭を撫でた。
「ただいまー!」
そこに近藤が帰ってきた。
「お帰りな…さ…」
近藤の顔を見た三人は一斉に黙った。
土方と原田の変わった姿を見た近藤も言葉を失くした。
「近藤さん、それ…」
沖田が先に口を開いた。
自分の頭を指さしながら
「すげえ似合ってまさぁ…洋服と、その頭」
珍しく沖田が人を褒めた。
原田と土方も黙ったまま、首を大きく縦に二度振った。
近藤は照れながらも、その大きな口の歯を見せてニカッと笑った。
「で、トシは分かるけど、うのさん、何で丸坊主…?」
「いやぁ…ははは…」
原田は顔を真っ赤にして苦笑いをした。