捏造回顧録

□捏造回顧録20
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ここ数日、沖田はずっとむくれた顔をしていた。

江戸に着いて一月が過ぎようとする頃。
松平のとっつぁんが用意してくれた「仮屯所」に身を置いていたが、何分狭い。
夜は一部屋に集まって鮨詰め状態の中、雑魚寝を余儀なくされる。
起きているのかと思う程に寝相の悪い者、まるで誰かと会話をするように寝言を言う者、鼾、歯軋り、夜中に
こっそり起きてマヨネーズを啜る音まで聞こえる。
睡眠不足に悩むことは必至だった。
それだけではない。
田舎から持ってきた野菜や米などの食料も尽き欠けてきた。
わずかな食料を切り詰めて作る食事はただでさえ旨くない。その上、ならず者の男所帯。今までろくに飯の支度なんぞしてこなかった者達が、無い知恵を捻ってする炊事はまさに戦場の爆心地の如くだった。

「飯はマズいわ腹一杯にはなんねぇわ、夜もろくすっぽ眠れねえ。する事と言ったら毎日毎日見回りと称した徘徊…。剣を振らせて貰えるわけでもねえ。無駄に体力消耗するだけだ。なぁ、もう武州に帰りやしょうぜ」

近藤もげっそりした顔をしながらも、沖田の意見に反論する。

「廃刀令のご時世に、今更田舎に帰って俺達に何が出来る」
「此処に居たって木刀下げて街をうろついてるだけでろくな事は何もしてねえですぜ」
「そうはギュルルルルな、ギュゥウウウってんだグルルルルルろ!?」
「腹の音が五月蝿くて肝心なとこは何にも聞き取れませんでしたぜ…」
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