メインの弐

□ミツバ
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「十四郎さんの…側に居たいの…」
「知らねーよ」

お前の事なんざ、知ったこっちゃねえんだよ…

少し肌寒くなってきた、秋の始まり。
季節の変わり目を知らせる強い風が時折吹いて、葉を散らそうとする。

「待って」

そう呼び止める声に土方は足を止めた。
仮にも惚れた女のその声に、年相応の期待がなかったわけではない。

出来れば少しの時間さえ、共に居たいと思うのに

「寒いだろ」
「いいの…もう少しだけ居たいと思っては駄目かしら」
「馬鹿か、体に障るだろ。帰るぞ」

土方はミツバの手を取り、ゆっくり歩き出す。
やはり少し肌寒い気温の所為か、ミツバの手は冷たい。

このまま江戸に連れて行ってしまおうかと、少しも思わなかったわけでもない。
ミツバの小さな咳の音を聞くと、現実が大きな黒い幕のように土方の心に覆い被さる。

ミツバの家の前ですっと手を離し、そのまま足を止めず歩いて行く。

「十四郎さん…」

その声にはもう振り向けない。

「惑わせんじゃねえ、俺の柄じゃねえんだよ…」

そう呟いた声を最後に、ミツバは土方の声を数年聞くことはなかった。




アイツの体がなんだと言い訳ばかりして、俺は自分の思いに蓋をした。
結局俺は自分のことばかりだ。
俺の成し得ないことを人に押しつけたところで…

アイツに一番惚れていた俺が出来ないことを、
誰が出来るってんだよ。
誰が俺に適うってんだよ…。

馬鹿はテメエだ。
そんなことに気付いたって今更遅いけど…

爺になった俺を見て、お前は笑うんだろうな。

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