メインの弐

□ごっこ
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張り込みは楽しい。
おままごとが出来るから。

日中の通常業務が終わる頃、ちょうど晩飯時。
土方さんは部屋を訪れる。
その時間を見計らって、飯の支度をして待つ。
張り込みという業務の間を縫って飯を作るわけだから、たいそうな物は作れないけど、米を炊いて、味噌汁を作って、簡単なおかずを作る。

「ただいま」

土方さんの声。ここは別に土方さんの部屋でもオレの部屋でも何でもない。
張り込みのためだけに借りた期間限定の住居。
でも土方さんは「ただいま」と言う。

「お帰りなさい」

部屋に迎え入れる。笑顔で。
土方さんの帰る場所がオレなんだと思うと嬉しい。

「お疲れ様です」
「あぁ。お、今日は魚か」
「はい。赤魚が安かったんですよ。煮付けにしました」

そんな他愛ない話も、この空間では何故か幸せを感じる。


こんな些細な飯で、土方さんの腹が一杯になるわけがないのも分かってる。けど、土方さんは何一つ、文句も言わない。

これはごっこ遊びなのだから。

机に食事を並べて、いただきますをして、土方さんは食事を始める。
オレは背を向け、あんぱんをかじりながら張り込みを再開する。

「なぁ山崎」
「はい?」
「いつかおまえと、こうした空間で、向き合って、同じ飯を食いたい」
「そうですね」

夢を見るのは誰も止めない。
例えそれが「叶わぬ夢」だとしても、ね。
オレはこの束の間の幸せに現を抜かしているだけで十分だ。

いつかの話なんて、要らない。

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