メインの弐

□最期
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俺は甲板の手摺りに凭れ、煙草を吸いながらぼんやりと空を見ていた。

明日からのことを考えねえとな…

だが、そんな気にはなれなかった。
色んな事を思い出す。
今まで無理矢理に押し込めてきた記憶の引き出しを、何かが勝手に次々と開けていく。
善いことも悪いことも…
今の俺に対する罰なのかと思った。

吸っていた煙草を海に投げ捨て、近藤さんの部屋へ出向く。


コンコン
「近藤さん」
「トシか。入れ」

近藤さんは横になっていた。俺が入室すると、起き上がろうとした。

「いや、無理すんな。寝てていい」

俺は近藤さんの側に腰を下ろした。

「聞いたぞ、トシ。山崎の事」
「あぁ…」
「ちゃんと、見送ってやろう」
「…その体で、か」
「俺のことは良い。俺は山崎をちゃんと、送り出してやりてえんだ」
「あぁ…そうだな」

山崎は愛されていた。
それは嬉しくもあり…どこか悔しい…

駄目だ。今日の俺は、やっぱりおかしい。

「いつ以来かな。お前が泣くなんてなぁ」

近藤さんは俺を見て難しい表情のまま微笑んだ。

「もうこんな思いはしたくねえ…」
「あぁ。トシ、お前は一番頑張ったよ」

そんな言葉が欲しいんじゃねえ。
俺を認めるんじゃねえ。俺を肯定するんじゃねえ。
俺を責めて、俺を咎めて、殴ってくれ。

そしてもうこんな茶番はヤメにしようと言ってくれ!!

どうせもう俺達に明日はない。

「なぁ近藤さん。江戸に戻ったら」
「俺は諦めねえぞ」
「そうか…」



次の日は、見事な快晴だった。
山崎を送り出すには良い日だが、

「嫌味か」

俺の心情とは裏腹なその空を憎んだ。

全員がボロボロの体をおして、びしっと隊服を着込み整列している。
近藤さんが弔辞を読み上げ、倣って敬礼をし、白い布にくるまれた山崎は、海に葬られた。

「山崎退、万歳!!」

原田が声を上げ、万歳をする。
皆も続けて、天晴れだの万歳だの…

俺は早々にその場を引き上げた。


江戸に着くまでの数日間、皆俺を気遣ってか、誰も声を掛けてこなかった。
一人になりたかった俺には有り難かった。
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