メインの弐

□桜
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「さてと。俺の正直な感想、言って良い?」
「感想?」
「ここ数日の。お前、かまってちゃんだろ?」
「はぁ?」
「まぁそう楯突くなよ。あ、何か飲む?」

放課後、山崎は有無を言わさず銀八の部屋に連れてこられた。

山崎の目の前に、紙パックのイチゴ牛乳が出された。

「ごめん、それしかねーや。で。今もこうして素直に俺んちついて来ちゃった訳だし?そこいらの手の付けらんねー奴とは違って呼び出されりゃ素直に毎日あんなとこ来ちゃうし?」
「…そうかも…知れませんね」
「俺で良けりゃいくらでも構ってやるから言ってみろよ。ただの教師が自分ちまで生徒引っ張り込むと思うか?このご時世にそう言うの、世間が五月蠅いんだよ?」

山崎が沈黙を貫く間、銀八はジャンプを流し読みしていた。

「並の質問して悪いけど、お前将来やりたい事とかねーの?」
「オレ、死ぬつもりだったんです」
「へぇ。また随分唐突なことを言うんだな」

銀八はジャンプを閉じた。
頭の後ろで手を組み枕にして、寝転がって宙を眺めた。

「何かしんねぇけど、未来に期待なんかしなくてイイけど、まだ見ぬものまで諦めんなよ…って、俺の恩師も言ってたような言ってなかったような」
「どこかで諦めなきゃ、期待しちゃうじゃないですか」
「それはその目で見てから決めりゃいいだろ。つかその前に、期待することを許されるだけの努力はしてきたのか?」
「え?」
「何もしねぇ奴が期待だけして自分の思った通りのものが手に入るなんて、烏滸がましいこと思っちゃねえだろうな。努力して、それでも報われないと思うんなら、まず期待は忘れちまえ。でも諦める必要はねえだろ。それがお前にあるわけ?この先生きてく努力はしてたわけ?」
「先生、オレはね…」

山崎は進路希望用紙にササッとペンを走らせて、それを銀八に投げつけた。

「同性愛者なんだ」

山崎が言葉を発したのと同時に、銀八はその進路希望用紙を読んだ。
銀八はそれに目を通すと、何も言わず用紙を畳んで、ズボンのポケットに仕舞った。

「オレはずっと普通じゃないのに気付いてて、なるべく目立たないように、悟られないように地味に、"普通"に生きてきた。でも、もう疲れちゃった。期待することすら許されないなら、どこかで諦めなきゃいけないんだよ」
「ふーん。諦めたら何かイイ事あんの?」
「楽になれる…。最後の悪足掻きと思ってさ、毎日校内放送で名前呼ばれるようなこともして。普通でいることを辞めようとしたけどさ…」
「あのさ。だったらなおさら、きっちり卒業してもらわなきゃ困るんだけど。進路希望、書き直し。何だって良い。とりあえず社会に出ろ」

銀八は新しい進路希望用紙を取り出して、山崎の目の前に差し出した。

「こっちの進路希望は、その後にでも考えといてやるから」


第一志望:先生の側にいたかった



卒業式の日
「山崎、卒業おめでとう」
「先生…」
「社会人、だな。第一志望、考えといてやるから」

銀八は大きく腕を開いた。山崎は銀八の胸に飛び込んだ。

「先生。ありがとう。"また逢う日まで"」

そう言って山崎は銀八から離れ、手を振り校門を出て行った。

「尾崎違いだ、バカヤロー…」

銀八は頭を掻きながら山崎を見送った。
山崎が諦めないことを期待して…
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