メインの弐

□やっつけ山誕
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くそっ、もうこんな時間だ。
時計を見れば、九時を過ぎている。
毎度のことだがプレゼントなんてもんは用意してやれなかった。
せめて少しは気の利いたことをしてやりたいとは思う。
だが…こんな時間じゃ、もうどの店もやっちゃいねえだろうな。

こんな日に限って、見回りが長引いちまった。
性分のせいか、なんかありゃ首を突っ込まずには居られねえ。
いや、職務なのだから仕方ない。
だからって、

なんでこんな日に限って、

攘夷浪士三組と鉢合わせって!!

ありえねぇだろ!ありえねぇよ!!

くそ。
体のあちこち痛えし、返り血塗れだし、こんな姿じゃどのみち店に立ち寄ることなんて出来ねえか。

たまにはな…
こんな日ぐらいはな…
アイツの喜ぶ顔が見たい、なんて、柄にもなくロマンチックなことを思っちまったんだ。
何もしてやれねえことを詫びれば、アイツは
「忙しいんでしょうに。いいんですよ、そんな気を使わないでください」
っつって笑うんだろうな。

「おいオヤジ〜、熱燗もう一本」

通りすがった屋台の、暖簾の向こうから聞き覚えのある声がした。

「銀さん、懐の方は大丈夫なのかい?あんた、月も替わったことだし今日こそはツケもきっちり払ってもらうからな」

万事屋のヤローか。



「オヤジ、そいつのツケなら俺が払ってやるよ」

俺は暖簾を潜り、オヤジにそう声を掛けた。

「あんた銀さんのツレかい?随分と親切な友人を持ったなぁ、銀さん」
「ん?あ…多串くん?いやぁ、ありがたいけどさ、どういうつもり…?っていうか、なんで血塗れ?」

相変わらず間の抜けたツラをしてやがる。
俺は選択を誤ったんじゃないかと自分に不安を感じた。
藁にも縋る思いとは言え…

いや、いいんだ。こんな日ぐらい。
プライドを捨てても、多少の犠牲を払ってでも、

「万事屋、頼みがある」
「お前が?俺に?なに突然、ちょっと、酔いが一気に醒めちゃったんですけど!どうしてくれんだよ」
「酔いが醒めようがどうせテメエの金じゃねえんだから良いだろ。オヤジ、御愛想頼まぁ」
「なっ、まだこれからだってのに勝手に会計してんじゃねえよ!!」
「いいから行くぞ」

俺はさっさとコイツの飲み代を支払い、襟首を掴んでその場を後にした。

「依頼前に料金払って、俺は承諾もしてねえってのに押し付けがましいにも程があるぞ、土方くんよぉ」
「うっせぇ、つかテメエあんな屋台でどんだけツケ倒してんだよ!五万って、ちょっとした飲み屋でもしないレベルだぞ」
「え?そんなにツケ貯まってた…?アハッ…で、頼みってなにかなぁ?土方さん」

急に態度変えやがった。五万はさすがに、マジでイタイが仕方ねえ。
これでコイツも多少無理な頼みも黙って利いてくれるだろう。

「お前、ケーキ作れるだろ?」
「ケーキ?お前の言うケーキの認識がマヨネーズまみれの可哀想なスポンジでなければ作れるぜ。って言うか朝飯前だ。んで、なに?」
「ケーキの…」

ヤベ。急に恥ずかしくなって言葉が出ねえ。
そして、コイツのにやけ顔が腹立つ!

「だからなに?早くしてくんない?寒いし。こんなことしてる暇あったら、浮いた屋台のツケ代使いたくて、銀さんうずうずしてんだよ」

鼻糞なんかほじりやがって。誰のお陰でそのツケの代金浮いたと思ってんだよ。
五万だぞ、馬鹿馬鹿しい。
五万か…躊躇してる場合でもねえな。

「ケーキの作り方を教えてくれ」
「は?お前が?…プッ なに、今日はキ○ーピーの創立記念日かなんかなの?それとも…コレか?」

そう言って、鼻糞をほじっていた小指をそのまま俺に差し向けた。つか、小指の先端に鼻糞付き。それ、どんな女だよ!

「あらあらぁ〜土方くんも隅に置けないねぇ」

そう言いながら万事屋は、さりげなく俺の肩に鼻糞を擦り付けながら、肩を組んでニヤリとした。

「汚ぇな。そんなんじゃねーよ。何だっていいだろ。とにかくケーキを作らせろ」
「何でもよかねーよ。テメエ、ケーキを舐めてやがるな。ケーキと言えば甘味の王様。王様舐めんな。そんな血塗れでズタボロの恰好で神聖なるケーキは作らせられねえ」

俺は言われるがままに万事屋に
連れて行かれ、風呂にぶち込まれた。

「身を清めてこい!話はそれからだ」

もしかして、身形(みなり)のことまで気遣ってくれてるのか?
風呂から上がり、用意された服に袖を

袖を…

袖を通すところなんか無い。これはエプロンじゃねぇか。

「てめー!これはどういうつもりだ!!」
「台所に立つにはエプロンをする。常識だろ」
「そうじゃねえ!服はどうした!?」
「埃と血にまみれてたから洗った。だって汚ねぇんだもん。俺、こう見えて綺麗好きだから、自分ち汚されるの嫌なんだよね」
「そ…そりゃ悪かった。ありがとよ。でも、なんで用意されたのがエプロンのみなんだよ!」
「あ?てめえに服を貸す義理はねえ。エプロン付けさせて貰えるだけありがたいと思えよ。な、土方君。プププ鬼の副長が裸エプロンでケーキ作り…あー、沖田君にも見せてやりたかったなぁー」

 腹 立 つ !!
なんだよこれ、もうほとんど罰ゲームじゃねえか!

「もういい、時間がねぇんだ。ケーキ作りをさっさと始めてくれ」

日付が替わるまであと二時間もねえ。何とか間に合わさねえと


三分クッキング形式で色々省略

「スポンジも冷めたな。あとはイチゴとクリームはさんでトッピングして終わりだ」
「あぁ…」
「そんぐらい出来るだろ。後はてめえでやれ」
「は?出来るわけねーだろ」
「生クリーム塗ってイチゴ乗せりゃいいだけだ。俺はもう眠いんだよ」
「無責任だな、最後まで付き合えよ!」
「後はてめーのセンスの問題だ。もう教えてやるこたねーんだよ。つか寝かせてくれ」
「待て!」
「っんだ「うるさいアル!!」」

チャイナ娘が起きてきた…。

「二人ともこんな時間にギャーギャーギャーギャーうるさいアル!何やってるカ!!」
「おう、起こしちまってわりぃな、神楽。今こいつに頼まれてケーキ作ってたんだ」
「…なんで裸エプロンアルか?変態!気色悪いアル」

気色悪い…だと?
こんな年端も行かない小娘に罵られるなんて、こんな屈辱初めてだ。
畜生、なんて日だ。最悪だ。

「はいはい。神楽、裸エプロンのおっさんなんか見てたら情操教育に良くないからもうあっちに行ってなさい。つーことで俺ももう寝るから、後は頑張れよ」

台所に一人取り残された。
目の前にあるのは二枚に切られたスポンジと、ボールに入ったままの泡立てたクリーム、盛りつけ用のイチゴ、だ。
わっ…わからねぇっ…!!
ケーキの中の構造がわからねぇ!
ケーキなんて食う機会もお目に掛かる機会も滅多にねぇから、どうなってんのか記憶にねぇ!!
上面は分かるんだ。絞った生クリームとイチゴが置いてあるのは分かるんだ。
しかし、生クリームってどうやって絞るんだ?
なんかこう…絞り出す袋みたいなのがあったはずだが…
あぁ、これか。ボールの横に袋が置いてあった。この袋にクリームを詰めて…?
どうやって?まぁいい。杓文字でもスプーンでも、掬うもんなら何でも良いか。
おい、待てよ?
…あの塗りたくられた部分はどうやってんだ?
塗りゃいいのか?
とりあえずボールからクリームを杓文字で掬ってスポンジの上に乗せた。
塗りたくりゃいいんだろ。

ぬりぬりぬりぬり…

なんかイメージするケーキ程、滑らかにならねぇな。こんなもんか?
で、イチゴを乗せりゃいいんだな?
ちょっと待てよ…おい、この二枚のスポンジ双方にクリーム塗りたくっちまったらどうやって重ねるんだ?
あー、俺の馬鹿…めんどくせぇなぁ。
とりあえず包丁二本滑らせてスポンジの下に入れ、持ち上げた。何とかうまく行った。
で、イチゴを乗っけて、クリームを搾る、と。
ん?搾るほどのクリームなんて残ってねぇぞ?

…まぁしょうがねえな。
色も形状も似てるし、マヨで良いよな。
クリームは搾れなかったけど俺は気合いとマヨネーズを絞り出した。って自分で言っててウマかねぇな。

よし。これを箱に詰めて

「万事屋、世話んなったな。俺は帰るぜ。隊服はどこだ?」
「あっち」

布団を被ったまま腕だけ出して指差した方向に、隊服は綺麗に畳まれて置かれていた。
恩に着るぜ…



「山崎、起きてるか?」
「…はいよ」

寝起きの声。寝てたか。

「どうしたんです、こんな時間に」

山崎が部屋から出てきた。

「ちょっと俺の部屋来い」
「あ、もしかして」

山崎が少しにやりとした。

部屋に入り、自作のケーキにろうそくを立て、火を灯した。

「何とか間に合ったな。こんな事くらいしか出来なかったけど、山崎…誕生日おめでとう」
「あっ、ありがとうございます、副長!!」
「吹き消せ」

フーッ

ロウソクを吹き消す山崎の唇をそのまま奪った。

「山崎。産まれてきて、俺と出会って、今日まで生きてくれて有り難う。俺はこの日に、一生感謝する。来年も、再来年も、その次も、ずっと、俺はこうしてこの日を、おまえと迎えるんだ。こんなありがてえ事はねえ」
「有り難うございます。オレ、幸せです。ところでこれ、なんか…ケーキで嗅いだことのない匂いがするんですけど…」

山崎が部屋の灯りを点けた。その瞬間、山崎の顔が一瞬ひきつったのを見逃さなかった。

「あの、これって副長の手作りですか…?」
「あぁ。見た目はアレだが味は保証する」
「えっと…あ、もうこれ完全に土方スペシャルですよ…ね?この渦巻き、生クリームじゃないですよね…」
「食え」
「いやいやいやいや、もったいなくて食べれませんよ、あはははは…」
「せっかく作ったんだ、食えよ」

ギャァアアアアアアアアッ


翌日

「おいザキぃ、おまえさん昨日誕生日だったろ?これ、プレゼントにやるよ」
「プレゼントですか?有り難うございます」
「激裏物の流出DVDだぜ。部屋でじっくり楽しみなせぃ」
「…」

(沖田さん、やらしいな…)

ガチャ「再生」ピッ

〜土方裸エプロンで初めてのケーキ作りin万事屋〜

「!!」

「どうでぃ?山崎」
「おっ…沖田さん…最高です!!有り難うございます!」



「もしもし、沖田君?あのVTR見た?」
「あ、旦那。見やしたぜ。あんまり良い出来だったから、ダビングして山崎の誕生日プレゼントにしやした」
「山崎…?あ、ジミーね。あいつ誕生日だったんだ。ってことは」
「そういうことですぜ、旦那。とにかく面白いもん頂いてどうも」


おわり

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