メインの弐

□プロトタイプ「叶」
1ページ/1ページ

誕生日


「副長ぉおー!ふくちょおーーー!」

男のくせに鼻に掛かった甘い高めの声。
ドタドタと騒がしい足音で走ってくる。
あいつは「廊下を走るな」と、学校で習わなかったんだろうか?

「ふくちょおー!!」
スパーンッ
勢いよく俺の自室の襖を開け、呼吸を乱しながら肩で息をする、こいつは俺の直属の部下、山崎退。

「なんだぁ?」
俺は苦々しい顔で興味なさげに抑揚無く言葉を放つ。

「聞いて下さいよ副長!」
興奮気味に目を爛々とさせ、断りもなしにずかずかと部屋に上がり込み、俺の目の前に腰を下ろす。
まだ少し息があがっているのか、興奮の所為か、微かに顔に掛かるこいつの鼻息が無性にウザい。

「オレ!今!神様に会ったんですよ!」
おいおい。ついに頭逝ったか?
「そうか山崎、俺が悪かった。八つ当たりでお前をあんなに打たなきゃよかった。反省してる。」
「なっ!そんな可哀想な子を見るような目でオレを見るなぁああぁ!」
「本気で言ってんならお前、十分可哀想な子だぞ」
「違うんですって副長!マジなんです!」
縋るような目でそう言うので割とマジなのかとも思ったが・・・、いや、そんな馬鹿な話
あったらおもしれぇじゃねえか。上等だコノヤロー聞いてやるよ。
「オレ、さっき自室にいて武器の手入れしてたんです。そしたら、何かの気配を感じて振り向いたら、」
「居たのか?」
「はい。腐女子みたいなのが」
「は?」
「いや、その腐女子みたいなのが神様です」
「山崎ぃ、俺ぁ忙しんだよ。お前の下らん冗談に・・・まぁ最初は付き合ってやろうかとも思ったけど、そんな出来の悪い馬鹿話には付き合ってらんねぇぞ」
「まぁまぁそう言わずに聞いて下さいよ」


山崎回想−−−−−−−−
それは、本当に突然に、それまで無かった気配を感じた。
あわてて振り向くと、長い前髪を垂らして俯いている・・・女の人?
と、断定するには余りに身なりが、その・・・なんかヤバい感じ。
「だっ、誰?」
声を掛けてみると、その人はゆっくりと顔を上げ、睨みつけるような上目遣いでオレを見た。
「ひっ!!」
「山崎・・・退・・・」
どもる様な低い声で俺の名を呼び、片方の口の端をひきつらせ、ニヤリと何とも嫌な笑みを浮かべた。
コイツッ!!もしや刺客・・・!!
オレは咄嗟に戦闘態勢をとろうと片膝をついて立ち上がろうとする。
「ちょちょちょちょちょちょっと待って」
その人は慌てて片手をパタパタさせ、
目を泳がせながら挙動不審な動きをとった。
あぁ、確実に。刺客ではない!
また腰を下ろし、その人に向き直す。
「デュフフッデュフッ・・・」
不気味な・・・笑い?気持ち悪い!!
「不法侵入の不審者。人を呼びますよ」
もはや厭きれ気味に言い放った。
「待って、山崎!私は」
なんだよ人の名前を気安く呼び捨てにすんじゃねぇよ。しかも初対面だぞ?
「なんなんすか?」
「私は、あのー、神様・・・みたいなもんです」
これ、斬ったら正当防衛になるかな?
「冗談はそれくらいにして、人が平常心を保てていられる内に、速やかにお引き取り下さい」
「冷たいー!山崎、冷たいー!あ、黒山崎?デュフッ」
オレは口元に手を当て
「誰かー!!不審者!!くせ者!!早く来てー!助けてー!」
叫んだ。
「ちょっ!馬鹿!やめて!今の無し!!」
その人は慌てて大きく素早く腕を振って何かをかき消すような行動をした。
そして不思議なことに、
そろそろオレの叫び声に気付いて走り寄ってくるはずの隊士達の足音はいつまでたっても聞こえてこない。
信じられないが、まさか・・・?!
試しにもう一度叫んだ。
「だーれーかーーー!たーすーけーてーーー!!!」
「バッ!マジ、やめろって!!」
また大きく腕を振って、煙草の煙を追い払うかでもするように動いた。
しーーー・・・ん
やはり隊士達が来る気配がない。
今の時間帯、屯所に誰も居ないなんてあり得ないはず。
「山崎、私を試したね。気は済んだかい?」
また不気味な笑みを浮かべ、少しドヤ顔・・・腹立つ!
腹立つけど、もしかして、本当に?
「うん」
声には出していないその疑問符にその人は肯いた。
「あっ、でも、私が神様?だからって、変に崇めたり敬ったりしなくていいから?みたいな?」
何なのこの話し方!?
「むしろ、友達みたいな、感じで接してくれればデュフッ」
何がおかしくて吹いちゃっての?こっちはドン引きですけど?
「って言うか、神様ってこんなに不快な感じなんですか?」
思わず聞いてしまった。
「不快?!ちょっ、失礼すぎる!!黒山崎ぃ〜」
さっきからその黒山崎ってのは何なの?
「黒山崎って言うのはー、我々腐の、あ、いやゲフンゲフン」
勝手に人の頭の中読み取って語り出したあげく最終的には何かをごまかしたぁああああ!!!

「で、神様とやらがオレに何の用ですか?」
「あ、そうそう。本題ね。山崎さぁ、今日何の日?」
今日は・・・、あっ、マジか!?
「そう、山誕だな」
何なのその略語?
「ま、そう言うわけでさ、山崎の事が、いやむしろ土山が、好きで好きでしょうがない私から、ささやかながらプレゼントをと思って」
「ひじやまってなに?」
「ゲフンゲフン、そ、そんな事は知らなくて良いんだよ!」
「ふーん。別に興味ないけど。で、プレゼント?」
「そう。プレゼントにこの世界を山崎にあげる」
「いや、壮大すぎて意味が分かりません」
「んー、つまり、この世界は私が創り出したものだから、山崎が望むようにしてあげるって事」
「じゃ、何もかもがオレの思い通りってこと?」
「そう。あ、でもあくまで山崎のバックボーンには私が居るから、全てってわけじゃないけど」
「はあ!?」
「だから、まぁ、半分は私があんたを思うように動かしてるって言うか?」
「余計解らん!」
「まぁ、試しに何か一つ思ってごらん」
こいつの不快感をどうにかして下さい!!(即決)
すると、あの不快な生物が、何とも清楚な綺麗なお姉さんに変身していた。
「山崎・・・そんなに私の事気に入らなかったのね」
さっきまでの低く篭もった声とは違い、透き通るような耳障りの良い声で、少し苦笑いをしながら言った。
何故かほんの少し罪悪感が湧いた。
でも、これでこの人の言う事を信用出来るようにはなった。
「なんか・・・すみません。疑っちゃって」
「いいよ。信用出来たなら」
爽やかな笑顔。この人は、本当に神様なんだ。
「やっぱ、ちょいちょいヒドいね」
「すいません。で、オレ、こんなプレゼント貰っちゃって・・・あのー、どうしたらいいんですか?」
「それは、山崎が目一杯幸せになって、私を萌えさせてくれればいいよ」
「幸せに、ですか?」
「うん。出来れば土方さんと」
「!!」
オレは一瞬で顔が真っ赤になった。
そういうことだったのか!!
ーーーーーーーーー回想終わり


「と言うわけで、副長。オレは神の力を授かってきました。」
「はぁあああ?意っ味わかんね!!」
「だからぁ、何でもオレの思い通りになるんです」
「そこまで言うんならなんかやってみろよ」
「なんかって言われても・・・」
俺は名案を思いついた。
「んじゃ、たば・・・」
言い掛けて山崎が口を挟んだ。
「ちなみに、煙草とマヨネーズは出せません。」
「なんでだよっ!!!!」

山崎回想ーーーーー
「土方さんは、きっと山崎に煙草とマヨネーズを提案すると思うけど、それは出来ないことにしておくね」
「え!?なんでですか!?あの人の前で煙草とマヨネーズを抜きにどうやって勝負したらいいんですか!?」
「ねえ、あなたが煙草やマヨネーズを簡単に出せたら、土方さんはあなた自身じゃなく、あなたが煙草やマヨネーズを出すことに魅力を感じるよ。それってね、つまり、際限なく煙草やマヨネーズを出せる人ならあなたじゃなくても良いって事だよね」
「そっか・・・確かに」
「それにね、ニコチンマヨが出せたとして、純粋にあなたを好きだとしても、土方さんは、そのプライド故ニコチンマヨを理由に出してくる。山崎、本音の『好きだ』を聞く機会亡くすかも知れないんだよ」
尤もだ。

ーーーーーーーーー山崎回想終わり

「と、とにかく煙草は税金が掛かるから出せません。マヨネーズも、この国の内需が狂う恐れがあるので出せません」
「なんだよ、随分ケチくせぇ神の力だな。だいたいよ、お前、煙草もマヨネーズも出せねえで、何の用があってわざわざ俺の所に来たんだよ!?」
「それは・・・」
「あーあ、やっぱそんな話、信用出来ねぇわ」
「えー、そんなぁ・・・」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ