メインの弐

□ヤマダ
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俺はかつて入国管理局の局長をしていた。
謂わばエリートだった。
何一つ不自由なく、不満もなく、日々を過ごした。
仕事があった。収入があった。家もあった。家庭もあった。

それが今じゃどういうわけか無職のまるでダメなオッサンだ。

人生なんてな、ホント、いつどこでどう転ぶかなんて分かんねえよな。

あ、さっき言ったこと一つ訂正な。
俺は無職じゃない。
とある人に雇われた「情報屋(インフォーマント)」だ。
まさかのタレコミ屋のオッサン。
マダオ改めマタオだ。

報酬は、酒とそこそこの女が買えるだけの現金。
まあこんな生活も悪くはねえ。
食うにも寝るにも困らないからな。



俺の仕事の流れは
まず、ナンパを装ってあの着物の女に声を掛ける。
上手く行ったていでホテルに連れ込む。
この着物の女、否、女装した人物が俺の雇い主。
真選組の密偵、山崎。

俺はまず風呂に入れさせてもらう。
ホテルの中では好き勝手に振る舞う。飯と酒を頼み、テレビを点けて、ベッドでゴロゴロする。
たまにそのまま昼寝に陥ってしまうこともある。
だが、俺のネタはいつも割と上質で的確だから、山崎さんもそんな俺の態度を大目に見てくれる。

報酬をいただいて、二人でホテルを後にする。
そしてまた俺は街をぶらつき、山崎さんに頼まれたネタを嗅ぎ回る。


しかし、参ったな。今回の依頼は…

「あんた、万事屋の旦那と仲良いんでしょ?旦那の情報、売って欲しいんです」


一週間後、いつものように山崎さんとホテルに入る。
今日は風呂なんか浴びてる気分じゃねえ。
そのままベッドに腰をかけ、口を開く。

「悪いが俺はダチを売れるほどヤスい男じゃねえ…。それ以前に、売れるほどのあいつのネタなんざ俺は持っちゃいねえ。俺が言えるのはそんだけだ」

「そうですか…」

「失望したか」

「ええ。情報屋としては。でも安心しました。あんたがそういう人で」




バカだな俺は。また、まるでダメなオッサンに戻っちまった。
何度あいつに人生を狂わされりゃ気が済むんだよ、俺は。
なぁ、銀さん

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