メインの弐

□愛憎
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時に、

あいつを「この手」で、滅茶苦茶にしてやりたくなる。

狂ってんな。

その自覚もある。


苦痛に顔を歪め、泣いて拒むあいつを見たくなる。
憎いんじゃねぇ。
むしろ


好きだ。
あいつの存在は、そうやって俺を狂わせる程だ。


痛い
もうやめて下さい
オレが何したって言うんですか
お願いですから

山崎の至る処に、俺の付けた狂気の跡が映える。

口からも、鼻からも血を垂れ流し
恨めしそうなその目で俺を見る。

ぞくぞくするじゃねぇか。

「くっ…ふっ、ふはははははっ」

俺は声を上げて笑う。
己のおぞましさと、奴の哀れな姿と、
混沌とした感情に、酔う。

そしてうなだれる奴を見て、憐れみと慈愛に似た感情がこみ上げ、涙がこぼれる。
奴を力一杯抱きしめ、その瞬間も、どこかで、この腕でこいつを粉々にしてしまいたいと思いながらも、

「ごめん、山崎、こんなつもりじゃねぇんだ…」

泣きながら詫びる。

あぁ、狂ってる。
俺は狂ってる。

山崎はただ黙って俺の背をさする。
俺は総て許された気になる。




ところが、山崎がだんだんと感情を著さなくなった。

どこか遠い眼をして、ただ時間が過ぎるのを耐え忍んでいるようになった。

あいつは無気力になり、
無感情になり、
ついには痛みすら感じていないようになった。

それでも俺はあいつを痛めつけた。

好きだ。
好きなんだよ、お前のことが。
愛してんだよ。

その言葉を何度も頭で繰り返した。



「気は済みましたか?」

奴が口を開…い…て





分かってますよ、副長。それがあんたの愛情表現だって。
あんたって人は本当に、不器用でしょうがない。
オレも、あんたを愛してますよ。


この手で、殺してしまいたいほどに、憎らしいほどに、
愛してますよ。

愛して

ましたよ。

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