メインの弐
□凸凹のやつ
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いつも通りの風景。
いつも通りの業務。
文卓を挟んで、いつも通りの土方と
「あの、副長…?」
「ん?」
「本当に何にも気付いてないんですか…」
「何が?」
「オレ…」
そう言って山崎は文卓に身を乗り出し、隊服の前合わせをがばっと肌蹴させた。
「なっ…!おま、えっ…?」
「どう言う理由かオレだけ戻りそびれました…」
「あ、そう言うこと?あまりのチッパイに気付けなかったわ」
「副長!!」
チッパイと言われて、山崎は顔を真っ赤にしてはだけさせた胸元を両手で隠した。
「別にいいじゃねぇか、おめえが男だろうと女だろうと。誰も気付いちゃねぇんだろ?俺だって今の今まで気付かなかった。そんぐらいどうでもいいことなんだろ」
「ヒドくないですかそれ?!」
「ヒドかねぇだろ。つうかおめえ、仕事で女装する位なんだし、むしろ好都合なんじゃねぇか?今だって隊服着てりゃいつもの山崎だし」
土方の言う通り、とりあえず差し支えはなかった。
厠も個室を使えば良いだけのことだし、浴場も、元々が監察方という仕事柄、他の隊士が利用する時間とは大幅にずれて利用することの方が多かった。
今の今まで誰にも気付かれなかったのも無理はない。
すればやっぱり、きっと今後も気付かれることはなさそうだ。
「仕事に差し支えさえ無けりゃいいんだよ…」
土方は、自分に、山崎に、言い聞かせるようにもう一度呟いた。
そして、文卓に身を乗り出し、人差し指で招く仕草をし、
「ところで山崎」
その仕草に応じるように山崎が土方の側まで顔を寄せる。
ガバッ!!
山崎は突然、土方に抱き締められた。
「おぉ、確かに女体…」
土方はそう呟きながら、山崎の背中に回した腕の、掌で、山崎の背筋をさすってみた。
「副長?」
「やっぱ骨格のゴツさがちげーわ。見た目じゃわかんねーが、おまえ随分と華奢になったな。んで、柔らけー…」
土方は、山崎の髪から香る、女特有の髪の毛に籠もった甘い香りを吸い込んだ。
「本当に…女だな…」
山崎は顔を熱くして戸惑った。
土方の胸板が、いつもよりずっと厚く、大きく感じた。
土方から香るタバコのニオイと、いつもは気にならなかった男特有の汗のすえた匂いに、眩暈を覚えた。
(やだ…オレ、感情まで女になりかかってる…?)
「やべ…我慢できねえ。こっち来い」
そう言って土方は、乱暴に文卓を押し退けて、山崎を引き寄せた。
山崎は崩れ落ちるように土方にのし掛かり、土方はそれを抱き止めた。
はっとして山崎が顔を上げ、土方の顔を見つめ上げる。
その表情は最早オンナの其れでしかなかった。
土方は山崎の体を包み込むように抱き締め、唇を寄せた。
徒に、下唇を甘噛みする。
「やっべ、唇超柔らけーな」
甘噛みした下唇をくわえたまま、そう声に出し、ニヤリとした。
(副長って、変態…)
山崎はそう思いながら目を閉じた。
悪い気は全くしておらず、むしろこれ以上にない賞賛を与えられた気になって嬉しかった。
(あぁ…もう、何をどうされてもいいや。めちゃくちゃにされたい)
絡まる舌に応えながら、頭がぼんやりしていくのを感じた。