メインの弐

□タイトル未定
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できることは何でもする。
金のためなら何でもする。
金は人を裏切らない。
汚かろうと綺麗だろうと、それはそれ。
価値は変わらない。

オレの身体にどんな痕や傷が付こうが、手にした金の価値は変わらない。それ以上でも以下でもない。

誰かがまたヒソヒソと、

オレの手首の縄の痕
オレの首もとのキスマーク
オレの顔に出来たあらゆる痣

そんなに気になる?
渦中の人物みたいな扱い。注目の的。なのに除け者。

いいさ別に。そんな事に構ってたって金には成りゃしない。


ある日オレの携帯に知らない番号で着信があった。

「…」
「山崎君?」
「誰?」

聞き覚えのあるような、無いような女の声。

「クラスメイトの声すら覚えてないのね」

クラスメイト…?

「そよ、だけど。もしかして顔も思い出せない?」

そよ…?
あぁ、どこぞのお嬢だかっていう金持ちの娘。
代々政治家一家だかなんだかって話だったな。

「お嬢様がオレに何の用?」
「興味があるの。山崎君に」
「へぇ。で?」
「買うわよ。私があなたを買ってあげる」
「へぇ、そりゃいいや」

指定された時間に、指定された場所に向かった。
そこには小綺麗な格好の、とてもあんなことを言い出すとは思えない清楚な女の子が立っていた。
小汚いオバサンや、欲望丸出しのギラついたオッサンみたいなのばかりを相手にしていたオレは、不覚にも少し心が躍った。

「ごめん、待った?」
「ううん、私も今来たところ」

不要とも思えるやりとりもしてみる。

「じゃあ…行こうか」

笑顔を作って手を差し出す。
そよは躊躇いがちにオレの手を取った。
あー…そういう事じゃなくて、オレが期待したのはこの掌に分厚い封筒…
なんて言えるはずもなく、努めて紳士的に、デートのエスコートをする。

「噂、聞いてるの。ホントだったのね。金のためなら何でもするって」
「まぁね。で、オレどうすればいいの?まさか人殺せとか言わないよね?流石にそういうのは出来ないよ」

そよの顔、見れば分かる。
こいつも所詮ただの女。欲にまみれた雌。
しかも家柄のせいか、ろくに自由な恋愛も、年相応の振る舞いもしたことないんだろう。
だからか、そよは他のクラスメイトの女より、幼く見える。

「嘘でも良いの。…愛してくれる?」
「はぁ…」

なんだかめんどくさい事言い出したよこの子は。

「とりあえず、五十用意したの…」

想像以上の分厚い封筒。
そよを抱きしめうなじにキスをした。



「ねえ?」
「ん?」
「山崎君って、キスはしてくれないのね」

肩越しに振り向くと、そよはつまらなそうに頬杖をついてオレを見ていた。

「しない主義なの」
「ふーん。次はいつ会ってくれるの?」
「まぁその内。ってかオレの気が乗らなきゃもう会わないかも」
「ふふっ。ふざけないでよ。誰が一度のセックスに五十も出すと思ってるの?」

あぁ、そういうこと?
これは、契約金だったのか…。

「今回の仕事の出来はサイテー。私、言ったよね?嘘でも良いから愛してって」

愛とか…知らねぇよ。

「金で買われた以上、あなたは私に文句を言える立場じゃないの。分かるよね?」

金のためならなんだってするよ。出来ることは、何だってする。
でもオレ、そんな知り得ないこと出来ないんだよ。

「ヒントをあげる。金と愛は…同じよ。特にあなたの場合」



すぐに理解した。オレの金への執着と、彼女の愛への執着は同じ「ソレ」だと。

オレは受け取った封筒から数枚抜いて、残りは全て突き返した。

「…いいの?」
「あぁ。また次の時に」
「次…?」
「うん。次…」

彼女の唇に、軽く唇を当ててみた。
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