メインの弐

□イミテーション
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ジミーが万事屋を訪れたのは一年前、だったか。


分厚い封筒を持って
「依頼にきました。全財産、預金を下ろしてきました」
なんて、真剣な眼差しで言うもんだからさ、話を聞いてやったんだ。

「何も聞かず、オレを抱いてください」

分厚い封筒に目が眩んで、抱いてやってもいいと思ったけど、
はぁーん。コレはアレだな。

「こんな端金で?悪いけど銀さん、男を抱く趣味はねぇんだよ。この金は、テメエ磨く資金に充てな」

それでもアイツは俺から目を離さない。あの鋭い真っ直ぐな目で、じっと俺を見ていた。

おいおい、そんなに俺を見つめたって、俺はあの男にゃ成れねぇよ。
罪なヤロウだ、多串君は。
ジミーもどんだけ切羽詰まってんだよ。

「後悔するだけだろ」
「それでも構いません」

バカなことを。後悔させてやろうじゃねぇか。

「よーし。服脱いでそこで待っとけ」

分厚い封筒をおもむろに掴んで、いちご牛乳をがぶ飲みした。
アイツがもたもた服を脱ぎ始める。

「何もたもたやってんだよ」

いちご牛乳の甘ったるい後味と匂いを残した口で、アイツの口を塞いで、無理矢理に服をはぎ取った。

まだキスしかしてねぇじゃねえか。
アイツは、泣いた。

「せっかくやっとその気になったってのによ。泣かれちゃこっちも興ざめだぜ。ほら、コレ持って帰れ」

封筒を投げつけて、俺は奥の部屋に引っ込んだ。

消え入るような小さな声で「すみません、また来ます」という呟きが聞こえた。

また来られちゃ困るんだよ。
なんだこの敗北感は。
後悔したのは俺の方…なんてまさかな。
くそっ…


その数日後、ジミーが多串君に殴られているのを見た。
殴られて倒れ込んだジミーをほかって歩き出す多串君と、それに置いて行かれないように必死になってすぐ立ち上がり後をついて行くジミー。
歪んでんな、あの二人。
多串君は気付いてんのかね?
ジミーのあの表情。誰がどう見たってすぐ近くの誰かさんに恋する乙女の顔だよありゃ。
ジミー、報われねぇなぁ。

俺はその足で買い物に向かった。
普段は吸いもしないタバコとヴィダル○○ーン。


偶然を装って会うために何日も町をぶらついた。
ジミーってなかなか外で見かけねぇんだな。
一月経った。
吸わねぇまんまのタバコは、湿気てんじゃねぇのか?
ヴィダル○○ーンで洗い続けた俺の髪質は…残念ながら何ら変わることはなかった。相変わらずの天パだコノヤロー。
頭をボリボリ掻きながら一人、ごちた。

「旦那ー!万事屋の旦那ー!!」

遠くで誰かが俺を呼ぶ。少し高めの男の声が聞こえた。
目を細めて見る。

誰?
俺、あんな奴知らねえ。
俺を呼ぶそいつは手を振りながら走り寄ってくる。

「はぁ、はぁ、旦那、久しぶりです」

息を切らして俺の目の前に立つ男…

「あぁ、もしかしてまたオレ忘れられてる?山崎です。真選組の山崎ですよ、旦那」

私服姿のジミー。
地味すぎて分からなかった。
そこらのモブより風景に溶け込んでて、石ころかとさえ思った。

「旦那ここ最近、ずっとこの辺ぶらついてましたね。人探しの依頼かなんかですか?」
「まぁ…そんなとこだけど、え?なんで知ってんの?」
「オレもここ一ヶ月この辺を張ってたんで」

コイツ、地味すぎて気付かなかったが俺らはどうやらほとんど毎日顔を合わせていたらしい。

「まぁいいや、ジミー君。ところでさ、ここで会ったのもなんかの縁だし、ちょっと茶でも付き合わねぇ?」

ジミーの肩に腕を廻す。
その瞬間ジミーの顔が真っ赤になって、はっとした表情で俺を見た。

「この前の依頼、引き受けてやってもいいぜ」

そう耳打ちすると、ジミーは小さく頷いた。
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