メインの壱
□老いても
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副長の頭に、白髪を一本見つけた。
「あ、白髪」
「え?マジ?どこ?ちょ、山崎、抜け」
頭を下げ、頭頂部をオレに見せつけるように差し出した。
「白髪は抜かない方がいいんですよ。増えるって言うし。そんなことしてたらキリがないですよ」
「良いから抜けって。まだ一本、二本の話だろ?恥ずかしいんだよ。抜いてくれ」
仕方なしにその白髪をぴっと引っ張って抜いた。
「いっ…」
「はい。白髪」
副長は涙目になりながら、その場所をごしごし撫で、抜かれた白髪をまじまじと見つめ、一つ溜め息を吐いた。
「山崎、ちょいこっち来い」
文卓に対面で座っていた副長が手招きで、オレを横に来るよう呼んだ。
「ここに座れ」
「はいはい」
座ると副長は、オレの膝に頭を預け寝転んだ。
「白髪、探せ」
「はい?」
「チラチラ見えたらカッコ悪ぃだろ。ヤなんだよ、白髪」
「白髪なんて自然の摂理ですし…格好悪いなんて言ったって仕方ないじゃないですか」
「お前、俺がそんな歳だって言いたいわけ?」
「いやぁ…」
「俺の頭の白髪見て、出来の悪い部下抱えて苦労してるんですねなんて、周りが思うぞ。山崎、お前の所為だと思われっぞ」
「ははっ…すみません…」
「隈無く探せよ」
副長の髪は、ハリ艶のある漆黒の髪。
光に当たると、一本一本に反射がすごくて艶だか白髪だか分からない。
猿の気繕いみたいだな…
気の遠くなる作業
「あの、副長」
「あ?」
ウトウトしていたのか、眠そうな声で返事をする。
「あの、こんな事しててもホント、キリがないんで、副長の白髪がオレの所為だってんなら、オレ、その、責任もってオレが一生副長の白髪染めますんで」
副長が、ニヤリと笑った。
「何だ?その下手なプロポーズみたいなの」
「そう受け取ったんならそれでも構いませんよ」
「ああ。じゃ、頼んだぞ」
顔を引き寄せられてキスをした。