メインの壱

□dreaming I was dreaming
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山崎が、ただひたすら俺といちゃつく夢を見たと、懇々と語った。

珍しいことだった。
アイツが、自らの口から、具体的な願望や夢、甘えた事を語ることは、殆ど無かった。

その夢の内容は、ひどく魅力的に感じた。
そんな山崎を、見たことがない。

話を聞いているだけで、息が苦しくなる程、鼓動が激しくなった。

顔がニヤケそうになるのを必死に堪え、溜め息を吐く振りをして、冷静な態度をとった。

胡座をかいて、腕を広げた。
早く、来い。
正直、心臓が爆発しそうだった。

山崎が、俺の胡座にちょこんと跨がり、腕を回してきた。
山崎は、少し照れた表情で、微笑みながら俺を見つめる。

「ふーくーちょーう」

甘えた声で俺を呼び、にこりと笑った。

「なんか、照れますね。オレ、嬉しくて…」

顔を真っ赤にした山崎が、もじもじしながら下を向く。

「幸せです…」

小声で呟いて、また顔を上げる。
穏やかな顔をして、笑っていた。

「夢の続き、してやるよ」

息が苦しい。本当は今すぐにでも、力一杯抱き締めたい。
ほんの数十センチのこの距離が、もどかしい。
だが今は、山崎が望むように、山崎に甘えられてみたい。

「…いいですか?おねだりしても」

以前にも聞いたような台詞。
あの時とは違う感情で、その言葉を、お前の総てを受け入れたい。
哀れみや同情心なんかじゃなく…
純粋な気持ちで、肯いた。

「夢と同じように、ねだってみろ」
「じゃあ…」

ちゅーして

小首を傾げ、上目遣いで微笑みながらそう言った。
不思議と厭らしさや邪な気持ちが無く、初恋の様な緊張感に、全身を包まれた気がした。

山崎の唇に軽く口付けをした。
山崎は、片方の頬を差し出し、指を指しながら「ここも」と、催促した。
そこにも口付けした。
もう片方の頬にも「ここも」と催促された。
いくら唇を落としても、気持ちが納まらない。
いくらでも、何度でも、どこへでも口付けをしたい。
その前髪をすくい上げ、額に
瞼や眉に、
こめかみに、
耳に、その付け根に、耳たぶに、
鼻の頭に、
口の端々に、
顎の先端に、
喉仏に、

山崎は、くすぐったい素振りをしながらクスッと笑い、少し身を捩らせた。

「はぁ…凄い。ホントに夢と同じ。ねえ、副長、もう一回、ここ」

笑いながら、山崎は人差し指を唇に宛て催促すると、目を瞑った。

軽く口を付けた。
上唇を甘噛みして、下唇を甘噛みして、
舌先でその唇の輪郭をなぞり、
唇同士を重ね合わせ、
薄く開かれたその隙間に、舌をねじ込み、
山崎の下の先端を突つき、
歯列をなぞれば、山崎の舌が俺の舌を追いかけるようにまとわり付いて、
絡み合い、
舌の裏を舐め上げ、
上顎を舐め上げ、
頬の内壁を舐め上げ、

唇を…離したくないと思った。
山崎が少し苦しそうな声を漏らし、仕方なしにゆっくりと唇を離した。
山崎の目がとろけていた。

すると、山崎は俺の後頭部に掌を当て、俺の頭を支えながら、唇に一つ、軽く口付けをした。

「そしたら次は、オレが、副長がくれた分のキスをお返しするんです」

両頬に、額に、瞼、眉、こめかみ、耳、その付け根、耳たぶ、鼻の頭、口の端々、顎の先端、喉仏…

順を追って一通りキスし終えると、山崎は一つ微笑んで、腕を回し抱きついてきた。

「す、き」

山崎が、声にならないような声で、ゆっくりと囁いた。一文字、一文字を、丁寧に放つような囁きだった。
俺も力一杯山崎を抱き締めた。

山崎が、愛おしい。純粋に、ただひたすら、愛おしい。
離したくない。
それ以外の思考も感情も湧いてこない。
愛おしい。愛おしい…

山崎が俺の肩に頭を預け、

「ねえ、副長…夢と同じ事、言ってもいいですか?」
「今更一々訊くんじゃねえよ、お前の夢の続きだろ?」

「だーいすき。ねえ、副長。大好き」

頭を撫でてやった。
すると、山崎は、小さく肩を震わせ嗚咽を漏らし始めた。

「おい…どうした?」

びっくりして、山崎の頭を撫でていた手の動きを止めた。

「やめないで!お願い…オレ、この台詞を言った後、ずっとこうしていたいと思ったのに…そこで夢が、終わっちゃうんです…」

俺の肩に目を押し当てるように顔を伏せ、泣き声でそう言った。
俺はまた、頭を撫でた。

「あぁ、わかったよ。終わらせねえよ。ずっとこうしててやるから」

山崎は泣きながら何度も「大好き」と呟きながら、いつの間にか寝息を発てて眠りについた。

また、いい夢見たら報告してくれ。

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