メインの壱

□焦れったい
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桂を組み敷いたが何も出来ないオレに痺れを切らしたのか、桂自らオレに襲いかかって来た。
その細い躰の、細い腕のどこにそんな力があるのか、疑問に思う程、強い力でオレの動きをねじ伏せた。
片手でオレの両手首を掴み、もう片手でオレの顎を掴み、顔を向き合わせる。

「真選組、監察方、山崎…退。はっきりと覚えておるぞ。お前のその、真っ直ぐな瞳…」

そうだ。
桂はあの衝突の時も、オレの顔を見て、オレが誰だか気付いていた。
オレが…地味でさえないミントンカバディあんパンチェリーボーイのこのオレが、まさか他人に顔を覚えられているなんて…
監察として年貢の納め時なのだろうか…

「なぜ不安そうな表情(かお)をしている。恐いのか?」
「桂…さんは、なぜオレの事を覚えていた…んですか」

そして何故かだんだん敬語になるオレ。
桂が掴んだオレの顎をクイッと少し上に向け、オレの目を覗き込む。

「あの時、本気でお前を攘夷志士として迎え入れたかった。それはもう叶わぬ事と分かっていても、今でも気持ちは変わらぬのだ。山崎退よ、俺の処に来ぬか?」

涼しげな目を細め、遠くを見るような顔で、桂はそう言った。

「そうは言ってもお前の答えは決まっていると、俺は知っている。お前の忠義は真選組にあるのだろう。そんなお前だから…俺はお前を好きになったのだな」
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