メインの壱
□カサブランカ・ダンディ
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態度で解るよ。そろそろ潮時なんだって。
もっと二人っきりの時間が欲しいって、我が儘言ってみたんだ。
副長のスケジュールは、オレが一番把握してるのに。
それは言わないのが暗黙の了解みたいなもんだったのに。
何も言わずに張り倒された。
そのまま、背を向けたまま、煙草を吸ってる。
思えばいつ頃からだったかな。
やっぱり、こういう仲には成ってはいけなかったんだと感じ始めたのは。
幸せだった頃、街でよく聴いた流行曲。どこかで耳にする度に、幸せだと思い返して、その思いを噛みしめたのに。
今じゃどうだろうね。
もう廃ってしまったあの当時の流行曲、たまに聞こえてくる度に、何故か悲しくて辛くなって、耳を塞ぎたくなる。
「俺ぁこの曲、あんまり好かねぇな」
くわえ煙草で腕を組み、眉をひそめた副長の呟きを思い出した。
オレも、今じゃこの曲聴きたくない。
もう、あの時擦れ違ってたんだと思う。
今日、今までの時間を思い返せば、まるで二人、道化じゃないか。
せめて最後まで、貴方が貴方らしく格好いい副長で居られるように、
オレらしい身の引き方を…
我が儘を、理不尽を、不平不満を、思い付く限りぶつけた。
「もういい、黙れ」
「いいえ、黙りません。オレの気持ち、ちゃんと解ってくれるまで黙りません」
「おめえよぉ、さっきから黙って聞いてりゃ…自分の身分忘れたか?」
「オレは貴方の恋人です!」
「その前に、真選組の一隊士だって事、忘れたか」
「オレは、貴方の、恋人です!今じゃ、貴方の側に居る手段の一つが真選ぐ…」
バゴッ
今までにない力で、ブン殴られた。
それでもオレは続ける。
出来れば貴方の手で粛正して欲しい。
もう貴方に愛されないのなら、
消えて
亡くなりたい…
「黙って欲しいのなら唇塞ぐ手段はあるでしょう?ねぇ、副長。オレは、貴方に愛されさえすれば、いくらでも黙るんですよ」
作り込んだ厭らしい笑顔、見てくださいよ、副長。
「…失せろ」
「ずっと側に居ろっていつか言ったのは貴方の方ですよ」
「今のおめえに側に居て欲しくなんかねえ」
「そうですか。オレももう無理に側に居なくていいんですね。オレあんたのアレだけが好きなんですよ。抱いて欲しい一心で、慕う振りなんかしなくていいんですね。そんなわけなんで、抱いて下さいよ」
「失せろって言ってんだよ…」
「抱いて下さいよ。どうせあんたも、オレに欲と人恋しさをぶつけてただけなんでしょ?身近で済まそうなんて、オレもですけど、どんだけケチなんだって…」
「斬り殺されてえか!!」
カチャリ
ええ。もういっそ、そうして下さいよ。
こんな心にもない言葉、これ以上吐き続けるの、辛い。
どんなにしたって、もうあの頃の幸せな日々は還ってこない。
その手で、オレを消して。
静かに目を閉じ、両手を合わせ頭を下げる。
「来世では、もう貴方の側には行きません。貴方もオレを見つけないで下さい」
「山崎…」
辛いから。死ぬほど辛いから。
今生の山崎退は確かに貴方に愛されたのだと、それだけで良いから。
副長の手を取り、その刀を
オレは
「おい!山崎の部屋から証拠が見つかったぞ!」
「やっぱり、繋がってたのか…信じたくねえが、コレが現実…か」
「まさか山崎がねぇ…副長もよく気付いたよなぁ」
「やっぱ、一番近いと分かるもんなんじゃねえかな」
「何の前触れもなくの暗殺だったからなぁ」
「局長も沖田さんも全く知らなかった話らしいぜ」