メインの壱

□お尋ね者
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非番だと言うのに、特にすることもなくオレは町をぶらついていた。

町をぶらつけば、何かネタの一つ二つ、拾えるかも知れない。
…と言うのは、あながち嘘じゃないけど半分以上建前で、
本当は、ある人を捜していた。

確か一年前は、この近辺にアジトが在ったんだ。
そしてこの近辺での目撃情報も、度々あった。
アルバイトを転々としているという情報も入っている。
非番の度に、この近辺をうろついて、暇を見つけては情報収集をした。

あの人に会いたい。
どうしても、もう一度だけでも、会いたくて、いや、一目見るだけで良い。
敵だと分かっているのに、こんな感情おかしすぎる。

ドンッ

「いったぁーい、ちょっと、お兄さん!どこ見て歩いてんのよもう!!」

衝撃とその声に振り返る。
長い艶のある黒髪を一つに結わえた、
綺麗な…女性…?

風に漂うその髪の香り…

「あ!貴様はいつぞやの幕府の狗!」

狂乱の貴公子、桂小太郎。
やっと、見つけた。オレの、お尋ね者。

桂はオレの顔を見るなり走り出す。
そう、オレは幕府の狗。そして桂はその敵、攘夷浪士。
桂が逃げる。オレは追う。当たり前の構図。
ただ、オレの目的は、違う。
桂を捕まえたい理由が、違う。

「待ちやがれ!桂!!」

女物の着物を召している桂の動きは鈍い。
脚をもつれさせている。

いとも簡単に捕まえた。
桂の、その手を。

そしてそのまま路地裏に引きずり込み、その細い身体を抱き締め、無理矢理に唇を奪った。

「貴様、なにを…」
「桂…会いたかった」
「放せ、バイトに遅れてしまうではないか」
「気にするとこそこかよ!」
「男子たるもの、約束は守るべし。それが就労規則であっても、だ」
「はぁ…」

相変わらず突っ込み所が多すぎて、調子が狂う。

「貴様、今、俺に会いたかったと言ったな。目的は分からんが、どうやら俺を捕獲する気では無さそうだな」
「…」
「此処に来い。いつでも会ってやるぞ」

一枚の名刺

かまっ娘倶楽部 ヅラ子




「初回指名料は無料だ」

桂は颯爽とその場を後にした。


たぶん続く

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