メインの壱

□タイトル無し
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副長は理不尽にオレを殴る。
理由なんかは何でも良い。
八つ当たり以外の何物でもない。

でも、オレを殴る時の副長は、いつも寂しそうな顔をしていた。

そんな表情するなんて、気付かなきゃ良かったと思った。
殴られるのは別にいいんだ。痛いのさえ我慢すれば、なんて事はないのだから。
でも、その顔を見たら、何でそんな顔をするんだろうって、気になって仕方ない。

日々繰り返されるその一連の流れが、“八つ当たり”で片付くものじゃなくなった。

そしたらオレ、どんな顔して副長の拳を受け入れればいいの?
何が、誰が、あなたにそんな顔をさせるの?
それはオレを殴ることで、解消されるの?


オレは今日も殴られる。黙って殴られる。
筈だった。

倒れ込んだオレの腹に、副長の足が入る。
ガスガス踏み突けられる。
いつものこと。もう慣れたよ。
でもいつもと違うのは、オレを踏み突けながら、副長が憐れみのような顔をしたこと…。

思わず副長の脚を掴んだ。
動きが、いや、時が止まったような感覚。

「そんな顔するくらいなら、もう止めて下さいよ…」

脚を掴んだ手を静かに放すと、副長はゆっくり足を降ろした。

「わりぃ…」

副長が初めてオレに謝った。

「いえ」

ゆっくり立ち上がり、服を正してその場を去ろうとした。

副長の手が後ろから、オレの肩を掴んだ。

「待て、山崎」

そのまま背中を抱き締められた。

「どうしたんです?」
「悪かったな…」

ひとつ、はっきりと解った。
オレの役目は、副長の総てを黙って受け入れること。

「いえ、良いんです。これがオレの役目なんです。こちらこそすみません、止めたりして…」

決してそんなことはないんだろうけど、例えば、オレがその手で殺されることがあっても、オレは受け入れる。
副長が、そうしたいのなら、オレは黙って受け入れる。

「嫌なら嫌だと言ってくれ。俺は…お前を傷付けたい訳じゃねえ…」

その腕に力がこもる。

「俺にはもうお前しか居ねえんだ…お前だけが、俺を許してくれると、ずっと側に在るもんだと、思ってたんだ…」

なんて不器用な人。
そんなこと言われたら、愛の告白だと思っちゃうじゃないですか。

「副長。いいんですよ。好きにしてくれて。あるがままの貴方で居てくれて、構わないんですよ。オレは貴方の望む限り、ずっと側にいるつもりです」

オレも器用な方じゃないけどね、これは愛の告白ですよ、副長。
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