メインの壱

□慕
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山崎の奴がある日を境に俺を避け始めた。
業務上の会話は滞りないが、ふと雑談を振れば、つまらなそう適当な返事しかしやがらねえ。
向き合っても目も合わせねえ。

擦れ違っても気付かない振りで挨拶もしねえ。
食堂ではち合わせても、やっぱり気付かない振りで、他の隊士と談笑してやがる。

後ろから原田が声を掛けてきた。

「副長、あんた山崎になんか嫌われるようなことでもしたんすか?」
「いんや、思い付かねえ。そもそもあいつは嫌なら嫌とはっきり口に出す奴だ」
「ありゃ誰がどう見たって副長を避けてますな」
「やっぱそうだろ?何が気に食わねってんだよ」
「うーん、一つ思い当たるとしたら…」
「ん?なんかあんのか?」
「いや…まぁ」

原田が不自然に言葉を濁す。
どいつもこいつもなんだってんだ?
俺が何をした?俺がそんなに悪いのか?日頃の鬱憤が限界でもきたのか?

「原因が分かんねえんじゃ、俺ももう対処のしようがねえ」
「…好き避け、でしょうな、ありゃ」
「は?」

聞いたこともねえ言葉が返ってきた。
原田は小声で続けた。

「多分山崎は、副長を特別な感情で慕ってますな」
「はぁあ?」

思わずデカい声で聞き返した。原田は「しっ!」と諫めた。

「あいつはそれを自戒して、意識しないようにと強く意識してああ言った行動に出てる。これは心理学でも実証されてる行動っすよ」
「まじでか…」

それが原因だとしたら、やっぱり対処のしようなんてねえじゃねえか…

それから数日経っても、山崎の態度はあんな調子だ。
くそ面白くもねえ。
腹立ちついでに質問をぶつけてやった。

「山崎、俺のことが嫌いか?」

目も合わせないまま淡々と答えた。

「えー、別に…」

ムカついた。上司に向かってその態度なのもムカついた。
俺は山崎の顎を掴んで持ち上げ、俺とがっつり目が合うように顔を向けた。

一瞬山崎は目を背けた。
だが、俺の狂気に怖じ気付いたのか、すぐ素直に目を合わせた。

「だったら、憎らしくなるほど俺の事が好きなのか?」

表情一つ変えず、真っ直ぐ山崎の目を見つめて言ってやった。

「…」

山崎は何も答えない。だが、その目に見る見る内に涙を溜めていった。

「おい、どうなんだ?」
「…なんで…」

涙を浮かべた目で山崎が俺を睨む。

「何でほっといてくれんのですか!?オレの気持ちに気付いたんなら、気付かない振りをしててくれればいいじゃないですか!」

悪いことをしたと思った。
山崎がこんなに哮って楯突いてくるのは初めてだった。
取り返しの付かないことをしてしまったと思った。
きっとこいつも、そう思って今までひた隠しにしてきたんだろう。

「どう責任取ってくれるんですか?オレへの落とし前は、どう付けてくれるんですか?解雇ですか?それとも嫌々オレを情けで抱きますか?」

そう言って、山崎は強く顔を振り、俺の手から掴まれた顎を外し、俺の手を振り払った。

「すまん…」

今はまだ何も応えてやれなかった。

山崎は俺の頬を拳で殴った。

「オレは紛れもなくあんたのことが好きで、好きで好きでもう、どうしようもないんだ!今までありがとうございました!」

そう叫んで山崎は走って出て行った。

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