メインの壱

□その時間を
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情事の後
一つの目的を果たし終えたように、溜め息とも深呼吸ともとれるような息を大きく吐き、呼吸を整える。
そして、
副長は、さっきまでのことは無かったかのような表情で煙草を吸い始める。

自分の手を枕にし、ぼんやり空中を見ながら煙を吐き出す。
宙を舞う幾何学的な紫煙が、あの甘い時間の余韻と共に消えていく。

目も合わしゃしない。

オレの存在丸無視のその態度。
声を掛けて良いのかどうかすらわからない。
オレはただ黙って、同じ様にぼんやりと空中を舞う煙を眺める。

ごろりと寝返って、オレに背を向ける。
灰皿に灰を落とし、そのままの姿勢で煙草を吸い続ける。
かさかさと音が鳴って、煙草の火が灰皿に押し付けられたのが分かった。

吸い終わったのに、やっぱり何の言葉も発しない。

身体の構造は同じだから、気持ちは分かるけど

ヒドいよ。

受け身側になって初めて知る男の無情さと、女の切なさ。

最悪。居心地が悪い。そろそろ帰れとでも言ってもらえた方がずっと気が楽。
もう耐えられない。

「あの…」
「あ?」

だるそうな返事。

「そろそろオレ、失礼します」
「は?駄目だ」

なんで?駄目とか言って、未だにこっちも見てくんないじゃん。

「いや、でも…」
「なんか用事でもあんのか?」

首だけ振り向き、肩越しに目線を向けられる。睨むように。

「だって、一緒に居る意味ないじゃないですか」

少し怒った口調で言ってみる。
副長はまた顔を背ける。

「とにかく、失礼します!!」
「おい」

やっぱり顔を背けたまま声を掛けてくる。

「ただ黙ってそこに居てくれりゃ良いのに。一緒に居る事に意味や理由が要るのかよ?」


気付かされた。
オレは求めすぎたんだ。
貴方さえそこに居てくれたら、それだけで良いと俺も思っていたはずなのに。

「つーか、女かよ」
副長は笑いながら振り返り、オレがさっきまで居た副長の隣をポンポンと叩きながら手招きした。

オレは黙って促されるままそこに落ち着いた。

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