捏造回顧録

□捏造回顧録18
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「原田に聞きましたよ。江戸に行くんですってね」

道場の家事、雑用を手伝いに来ていた山崎が土方に言った。

「あぁ。まだちゃんとした日取りも具体的なこともなんも決まってねえけどな」
「でも、良かったですね。話、うまく纏まって」

山崎は笑う。

(何だ、この胸の痛みというか、つかえというか…)

土方の喉が、詰まったように苦しくなる。

「なぁ…おめえは来ねえのか」
「はい?なんでオレが?オレ、此処の門弟でもないし、嘆願書だって関わってないんですよ」

山崎は笑ったまま、洗濯板に稽古着を擦り付けながら土方の問に返した。

「そうか…そうだったな。わりい、今のは忘れてくれ。何言ってんだろうな、俺は」

山崎は、そんな土方の言葉を聞こえないフリをして、ザバザバと稽古着を洗っていた。

土方は昨晩のことを思い出していた。

“…私も…連れていって”

頬を赤らめ、土方にそう言った。
総悟の姉、ミツバのことを…

「土方、近藤さんが話があるって呼んでたぞ」

通り掛かった原田が土方に声を掛けた。
「あぁ」とだけ返事をして、土方はその場から去った。
土方の背中を見送って、原田は山崎の側に腰を下ろした。

「俺らが江戸に行く話はまだ内密にしといてくれ」
「うん。分かった。でもなんで?」
「沖田君のことで…」


土方は近藤の部屋を訪れた。

「話ってなんだ、近藤さん」
「あぁ。まぁ座れ。江戸行きのことでな、総悟のことなんだが…」
「あぁ。俺もそれは気懸かりだったんだ」
「御姉上のミツバ殿のこともあるしな。それにあいつはまだ若すぎる」

ミツバの名を聞くと、どうしても昨晩の事を思い出す。


“私は…総ちゃんの親代わりだもの。あの子には私が居ないと…それに、私…みんなの…

…十四郎さんの側にいたい”


「残して行くって言うのか」
「トシは反対か?」
「いや…同意見だ。江戸に行くとなりゃ明日の我が身の無事は保証されねえ。遊びじゃねえんだ。それ相応の覚悟がいる。あいつには…まだ早い」
「その通りだ。ここに残すため、道場を総悟に任せようと思う」



原田は山崎が請け負った雑務の手伝いをしていた。洗濯物を干しながら会話をしている。

「山崎は江戸に来ないのか?」
「それさっき土方さんにも言われたよ。って言うかなんでオレが?」
「土方について行きたいとか、思ってねえのか?」
「…」

山崎は表情を曇らせ、急に押し黙った。

「土方も随分思い切った事したな。まさか山崎にそんな事言うなんてなぁ」

原田は笑いながら山崎の方を見た。

「オレは行かないよ。そもそもオレは関係ない。此処で皆の武運を祈ってるよ」
「それでいいのか」
「なんで…そんな事訊くんだよ?…原田の意地悪…」

山崎は、原田から顔を背けて、涙を一筋流した。
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