捏造回顧録

□捏造回顧録8
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呼吸法を教わり、走り込みにも慣れ、オレは、体力と肺活量が身に付いてきた。
足も以前より、また幾らか早くなった。
足の速さを買われて、瓦版の配達のバイトは、配達地域を拡大して任されるようになった。
するとお父上は、
「俺だって毎日無駄に走りたかねぇよ。そう言うことならもう走り込みはやめてとっとと次に行こうぜ」
次の段階に進んだ。


「はい。コレあんたに」

お母上から受け取ったのは、忍び装束だった。

「おぉ、イイもん貰ったなぁ。忍び装束か。母ちゃん、俺のは?」
「あんたのなんか無いよ。退のこさえるので一杯一杯だったんだから」

お母上は、オレのために忍び装束を手縫いで拵えてくれた。

「でもオレ、まだこんな良いものを身に付けられる程のレベルにも達してないのに、本当にいいんですか?」
「なに言ってんだ、形から入るのもまた由(よし)!第一忍び装束ってのはなぁ、忍者の行動に理に適ってんだよ。動きやすいように作られてんだよ。要は忍者のジャージよ、ジャージ。身構える程のこたぁねーんだよ」
「そうだよ、退。コレ着て頑張ってちょうだいよ」
「有り難く頂戴いたします!」

嬉しかった。オレは幸せだとはっきり思った。
忍び装束が嬉しかったんじゃない。
実の子じゃないオレにここまでしてくれる、二人の思いが嬉しかった。

オレは本当にジャージのつもりで忍び装束を着倒した。

「山崎、お前随分変わったもん着てるな」

配達地域拡大で、道場の近くも配達するようになり、朝稽古をしていた原田に久々に会った。
原田は、少しバカにしたように笑いを含んだ声でそう言った。

「忍び装束。動きやすいんだよコレ」
「なにお前、まだ忍者ごっこやってんのか?」
「ごっこじゃないよ。修行」
「そうか。まぁ頑張れよ。ただ正直…忍び装束でその辺ふら付くのはどうかと思うぞ」
「なんで?せっかくお母上が作って下さったのに」
「それ、忍ぶための衣装だろ?その格好で人前出たら浮くだろ。全然忍べてねえぞ」

!!
オレはなんて莫迦なんだ!
お父上の「要はジャージだ」の言葉が印象深かったのか、忍び装束を纏う忍者と言うもの本来の姿を忘れていた!

オレはその日、全力で忍び、自分史上最速で配達を終え帰宅した。
忍者の気持ちが、思わぬ形で理解できた…。


「お前なかなか筋が良いなぁ。忍びの何たるかをよく理解してやがる。大したもんだ!ははははは」

その日以来、オレの忍術は著しく上達した。

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