捏造回顧録
□捏造回顧録7
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お父上の意思が嘘か本当かは分からないけど、オレはもう少し、お父上に忍術を習いたくなった。
お父上がそこそこ強いのは事実だ。
オレも、出来れば強くなりたい。せめて自分の身は自分で護れるくらいには。
「つってもあんまり俺に期待すんなよ?忍術っつーのはなぁ、日々の鍛錬の繰り返しだ。一日怠れば取り戻すのに三日、いや一週間は掛かると言われてんだ。俺ぁ退いてからもう何年も経ってっからなぁ」
お父上は柔軟体操をしながらそう言って、二、三軽く飛び跳ねると、
「よし、付いてこい!」
走り出した。オレは必死に後について走った。
一つ小さな山を越え麓に下りるとそのまま山の周りをぐるっと廻るようにして帰ってきた。
結構な距離を走ったが、お父上は一つも呼吸を乱していない。
「よし。今日はこんなモンだ」
お父上はそのまま鍬を担いで畑へ向かった。
オレはその場に倒れ込むと、もう動けない程体力を消耗していた。
来る日も来る日も走り込みは続いた。
「どうだ?大分慣れたか?」
「はぁ…はぁ…前よりは…」
「そうか!じゃ、父ちゃん明日からもう少しスピード上げちゃおっかな」
え?オレ、全速力で付いてってたんですけど…
走り込みは思った以上に辛かった。
「あの、この走り込みはどれくらい続けるんですか?」
「バカ、おめぇこんなもん基本の基の字の最初の横棒一本にも達してねぇよ」
お父上は空中に“基”の字を書きながらそう言った。
「日々の鍛錬の積み重ねって言ったろ?修行ってのはなぁ、おめぇみてえに地味でパッとしねぇもんなんだよ。息が上がってる内はまだまだだな」
そして、いつものように鍬を担いで畑へ向かった。
が、
すぐさま振り返り、神妙な表情を浮かべた。
「退…ごめん。父ちゃん、大事なこと言い忘れてた…」
「はい?」
「呼吸法教えるの、忘れてた…マジでスマン」
ええっ!?
「お前、よくあの走り込みに毎日付いてこられてたな。実は忍者には特別な呼吸法があってだな…忍者ってのは、なんせ肺活量ってのは大事な訳よ。そんでな、効率よく空気を取り込む呼吸法がある訳よ。それを父ちゃん、最初に教えるの忘れてた。ハハハハハハ」
笑い事?!ねぇ、これ、笑い事で済ませれるの?!
「二重息吹と言ってだな。ま、アレだ。ラマーズ法みてえなもんよ。ヒッヒッフー。って」
「ヒッヒッフー」
「いや、ホントは吸う吐く吐く吸う吐く吸う吸う吐く」
「全然違うじゃないですか」
「でもよ、お前今言ったの覚えられるわけ?すーはーはーすーはーすーすーはー、はい、やってみ?」
「すーはーはー…」
忍者修行はやっぱり、基本の基の字の横棒一本にも達してなかった。