捏造回顧録

□捏造回顧録5
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オレは何故かどうしても彼を引き留めたかった。
引き留めて、オレが何か出来る事なんてないけど、
去ろうとする彼の背中が、寂しく見えた気がしたから。

「あ、じゃあお風呂は?そうだ、お腹は空いてません?ご飯も炊いてあるし簡単なものならオレ、何か作りますよ」
「おまえ、何か必死だな…」

風呂を沸かし、食事の用意をした。

「母ちゃんみてえだな、おまえ」
「え?そうですか?」
「いや…俺母ちゃん居ねえからどんなもんか知らねえけど、何かそんな気がした」
「オレも母ちゃん居ませんよ。フフッ、一緒ですねー。あ、そろそろ飯出来ますよ」

並べられた食事を前に、彼は懐から何かを取り出し、おもむろにそれを掛けた。

「え?何やってるんですか!?」
「マヨネーズ」


食事も終わった。風呂にも入れた。
彼は行ってしまう。
…ん?どこに?

「あの、トシさんって帰る所ってあるんですか?」
「家は一応ある。俺の帰る所じゃねえってだけだ。ってかおまえ…何で俺の名前知ってんだ?」
「あなた、バラガキのトシって有名な人なんでしょ。お父上が言ってました」
「何だ、知ってたのか。知ってて俺が怖くねえのか?」

その時、玄関の戸が開いた。
お父上とお母上が帰ってきた。

「ただいまー。おっ、バラガキ起きたか?」
「お帰りなさいませ、お父上、お母上」

ふと彼を見ると、ビックリしたような顔をしている。

「どうかしました?」
「お…俺、コイツにやられた…」
「え?お父上に、ですか?」
「おまえの父ちゃんか、あれ」
「やられたって…どう言うことです、お父上。ケガ人を拾ってきたわけじゃなかったんですか?」
「ん?そうだよ。俺がやった」

お父上は悪びれた様子もなく、あっけらかんと答えた。

「なにやってんですか…」
「いやぁだってよお、コイツ人んちの畑荒らすんだもんよ。あぁ、そう言えば前に右之助んちの畑荒らしてノされてた内の一人も、コイツだったな」
「えーっ?!」
「性懲りもなく誰彼構わず喧嘩ふっかけて。喧嘩ぐらいならまぁいいが人んちの畑を踏み荒らすなってんだよ」
「本当なんですか、トシさん?」
「…」
「まぁいいさ。退、薬は飲ませたか?」
「あ、いやぁ…その、薬…」



どう言うわけかその晩、彼は家に泊まっていくことになった。

「あれはおまえの両親か?」
「いえ…本当の両親じゃないんです」
「あぁ、おまえ母ちゃん居ないって言ってたもんな。父ちゃんは、おまえの父ちゃんか?」
「お父上も…」
「俺と一緒だな」
「家はあるけど自分の帰る場所じゃないって言うのは、そう言うことですか?」
「まぁ…な」

ガサッと寝返りの音が聞こえた。
人それぞれ事情や想いがある。
オレだってそう。でもオレとは違う。
深入りは、止そう。

「ところで、おまえのお父上…あれは強え。徒者(ただもの)じゃねえな」
「はい?」

あの素っ頓狂が強いはずないし!
ただの農民だし!徒者だよ!!

あれ?このバラガキ、ホントは弱いんじゃね?

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