捏造回顧録

□捏造回顧録3
1ページ/1ページ


俺達農民は、なんの思想も持ち合わせちゃいない。
生きていくだけの農作物を作り、飯を食う。
飯を食うのに天人の襲来や攘夷なんて関係ねえ。
国や藩が自分たちに何をしてくれる?
俺達農民はどこの国に生まれようがどこの藩に属そうが農民だ。その地に畑を作り飯を食うだけだ。
これからの時代、大切なのは自分の身を守ることだ。
そこで父ちゃん、考えました!
父ちゃんな、実は猿飛佐助の大ファンでよぉ、知ってるか?猿飛佐助。真田幸村に仕えたって言われる忍者だよ。
忍者、カッコイイよなぁ!忍者は良いぞ、忍者。
何てったって忍者は身のこなしが軽い。自分の身を守るには、やっぱ身のこなしだよなぁ。
父ちゃんな、忍術には少し覚えがあんだよ。
退、おまえにな、忍術を叩き込もうと思ってるんだが…


お父上(養父)の話はこうだった。
酔っぱらいの戯れ言、ではなかった。
お父上は元々こういう人なのだ。
オレは立場上、その戯れ言に付き合うしかなかった。
お父上の言う「忍術に少し覚えがある」と言うのも、マンガで得た知識だった。それをバカ正直に真に受けて、オレに実践させた。教科書だと言ってNARUTOの単行本を渡された。
いい歳コいたおっさんの、忍者ごっこに付き合わされただけだった。
何度も溺れかけ、毎日筋肉痛に悩まされ、お父上の植えた麻の木が日に日に伸びるのが憎らしくなった。
漫画と何処かで聞きかじった知識をオレに叩き込んだところで、勿論オレは忍術を修得することは出来なかった。
でも、足は速くなっていた。
役に立ったのは、瓦版を配る早さが格段に変わったことくらいだった。

なんの思想も持ち合わせない農民なら、こんな摩利支天を崇拝する思想も早く捨ててくれ!
そう思いながらも、忍者ごっこは半年以上続いた…。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ