捏造回顧録

□捏造回顧録23
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「山崎、ちょっと」

土方が山崎に手招きをして、呼んだ。
山崎はすっと腰を上げ、音も立てず土方の方に駆け寄った。

土方の目の前に立つと、山崎は嬉しそうに笑った。

「その髪型、似合ってます。男前ですよ、ふ・く・ちょ・う!」
「ばっ…やめろよ。そんなんじゃねえよ…」

土方は顔を真っ赤にして照れて見せた。そして、初めて人に「副長」と呼ばれたことに、内心感激していた。
何度も山崎の声で発せられた「副長」の響きを脳内再生でリピートしていた。

一頻り悦に浸ったところで気を取り直し、本題に入る。

「ところで、手紙、読んだか?」
「読みましたよ。だからとりあえず食料持って…」
「いや、あの…江戸に居てくれんだろ?」
「…はい。オレでいいならそのつもりです」

山崎のその言葉に土方は安心したのか一息吐いて、山崎の肩をぽんと叩いた。

「おまえじゃなきゃ駄目なんだよ…俺は」
「え?」

土方が余りに小声で呟いたその言葉は、土方の思惑通りか山崎にははっきり聞こえなかった。


その日の夜、近藤ともう一人の副長のあの男と、土方の居る部屋に山崎は呼ばれた。

「君が山崎君」
「はい。山崎退と申します」
「私は山南敬三(仮)と申します。君の話は土方君から聞いてますよ」

土方が言っていた通りの、本当に穏やかで物腰柔らかい印象だと山崎は思った。

(確かに土方さんとは正反対)

山崎はその「山南」と名乗る男の、人の良さそうな雰囲気に安心していた。

「で、ザキ。おまえも江戸に居てくれるの?」

近藤が嬉しそうに笑顔で山崎に問いかけた。
山崎は何となく山南の顔色を伺うようにちらりとそっちを見た。

「私は勿論、賛成ですよ。誰も反対なんてしませんよ」

山南も微笑みながら山崎にそう声を掛けた。

「ね、土方君?」

山南は土方に同意を求めた。土方はこの男に何かを知られているような気がして一瞬ドキッとし、バツの悪そうな顔をした。

「あ…あんたのお眼鏡に適ったんなら、山崎をここに置かねえ理由はねえよ…」
「ふっ、そう言うことにしておきましょうかね。土方君、君が“必死に推薦した”山崎君なら、私は異存ありませんよ」

山南は穏やかに笑いながら言った。

そして山南から、三人に、これから山崎が担う「監察」と言う役職の説明があった。

「なるほど、ザキにぴったりじゃないか!」

近藤は大きく肯いて山崎に肩を組んだ。

「ザキ、これから頼むぞ」

近藤がそう言うと、山南は山崎に隊服と刀を渡した。

「よろしくお願いしますね、山崎筆頭」
「山崎、頼んだぞ」
「ありがとうございます。謹んでこのお役目、請けさせていただきます。近藤局長、山南副長…土方副長」

山崎は三人に向かって、手を着いて頭を下げた。
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