捏造回顧録

□捏造回顧録22
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その日の夜。

「お父上、お話があります」
「お?なんだいなんだい?あれか?これか?これの話か?」
「いや…あれとかこれじゃ全く要領を得ないんですけど」
「まぁいいじゃねえか!で、本題は?」

山崎は一呼吸置いて、頭の中を一旦整理した。

「お父上の期待を裏切るようで申し訳ないのですが、オレは、忍者を諦めます」
「は?」

父は呆気にとられたような顔をした。

「自分の身を守る事を諦めました。せっかく生き長らえたこの命を粗末にする所存、どうかお許し下さい…」
「は?」

父は益々分からないと言った顔をした。

「するってぇと、なにか?お前、死ぬつもりだって話か?」
「はい。その覚悟で江戸に参ろうと思っております」
「…なぁ、退よ。忍者諦めたからって、直ぐ死ぬような事じゃねえんだから、そんな畏まんじゃねえよ。ドキッとすんじゃねえか」

父は少し涙目になって山崎を見た。

「お父上は、忍術を“守るもの”と教えて下さいましたね。オレはその教えが大変気に入りました。生きていく上では守るものは非常に多い。自分自身や、大切な人、物、事、全て守ることが出来たらと思い、今日まで稽古にも励んで参りました。中にはどうしても自分では守れないものもあると知ったのも事実です。でもオレは、お父上に教えて頂いた“守りの美学”を決して忘れはしません」
「そうか」
「しかしそれを捨て、オレは武士に…」

山崎は涙をこぼした。

「何を泣くことがあんだよ!?自分で決めたことなんだろ?それに、武士だって立派なもんじゃねえか」
「オレは武士になんか成りたくなかったんだよ!刀を振ることが決して正しいとは思えなかったんだよ!人を斬ったり、成敗するなんて、オレには到底出来ないよ!!」

山崎は急に大声で泣き出し、父に抱きつき縋った。
まるで子供が泣きつくように、父の胸に顔を埋めた。
初めてのことに父は驚いた。
貰われ児という身分故か、どこか遠慮がちでいた山崎が、今は遠慮もなく自分に縋って、心情を吐露しながら自分の胸で泣いてくれたのだ。

「おぅおぅ、よしよし…」

そう言って山崎の背中をさすりながら父も泣いた。

「退よ、剣でも人は守れるさ。その気になりゃあ、手段は問わねえ。何をどうしたって守れるさ。武士は攻撃や人を殺めることばかりじゃねえよ。なぁ、おめえは強いんだ。腕っ節や技量じゃねえ。その心だ。お前がその心を持ってる限り、お前は守れる。守り抜くことが出来る。成敗なんかしなくて良い。そんなことは他に任せて、お前は守りの武士になれ。楯である剣であれ」
「父ちゃん…」
「うんうん」
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