捏造回顧録

□捏造回顧録22
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二人は歩いて、村でも比較的少し栄えた商店の並ぶ地区に来た。
そこでもミツバはまだ山崎に対して怒りを露わにし、ムスッとした顔をしていた。

「あの…なんでそんなに怒ってるんです?」
「鈍感!」

それを見ていた商店の店主が

「にいちゃん、駄目じゃねーか。女が怒ってる時は、腹が減ってる時か、構って貰えなくて寂しい時って相場が決まってんだ。ほらねえちゃん、これ食いなよ」

そう言って軒にぶら下がっている干し柿を一つ取ってミツバに差し出した。

「にいちゃんも、さっさと謝ってうめえもんでも二人で食いに行って、とっとと仲直りしちまいなぁ」

店主は左手の掌に、拳を握った右手をパンパンと打ち付け、少しゲスな笑顔で言った。
ミツバは黙って、貰った干し柿をその場で食べていた。

「あの…おじさん、オレ達そういう間柄じゃないんで…」
「にいちゃんがそのつもりでも、このねえちゃんはそうは思ってねえのが、このねえちゃんの怒りの原因だったりしてな?がはははは」

店主は下品に大笑いをした。
その店で一通りの乾物を買って山崎が金を払うと、ミツバは店主からひったくるように袋を受け取り、先に歩いて行ってしまった。

「にいちゃん、ウマくやれよ?なんならこれ、オマケしとくよ、精が付くぜ?」

店主は山崎にこっそりと朝鮮人参を干した物を手渡した。

「い…要りませんよ!」

朝鮮人参の受け取りを拒否して山崎は走ってミツバの後を追った。

「ね…ねえ、ミツバさん?あの…荷物、持ちますよ?」

するとミツバは立ち止まって振り向き、乱暴にその袋を山崎の胸元に押しつけた。

「だったらそのままそれ持って、江戸に行きなさいよ!」
「えぇ!?」
「本当は自分だって江戸に行きたかった癖に!何よ、意地張っちゃって!男の子はみーんなそう。つまんない意地張って、人の気なんか露ほども知らないんだから!!」
「ミツバさん」
「私、あなたに嫉妬してるのよ!私が付いて行きたかったのよ!健康な体で居られて、あの人に望まれて…私が欲しかったもの全部持ってるあなたが、どうしてそこまで拒否するのよ!行きなさいよ!ねぇ、私の代わりに行って頂戴よ」
「あんまり興奮すると、お体に障りますよ…?」
「興奮させてるのはあなたよ、山崎さん」

ミツバは山崎をまくし立てた。

「私ね、こんなに怒りを覚えたことはないの。こんなに馬鹿にされた気分は初めてよ。私に申し訳ないと思うなら、あの人のために、私の代わりにと思って行って。お願い…こんな事をお願い出来るのは、山崎さんしか居ないじゃない。だって、私達…恋敵ですもの…」
「…知ってたんですね、オレの気持ち…」

山崎は観念したように呟いた。

「同じ思いを抱えた者同士じゃない。女はそう言うの、敏感なのよ。だって、私は誰よりも十四郎さんを見ていたんですもの。十四郎さんが誰を見ていたのかも知ってたわ。その視線の先の…山崎さんが誰を見ていたのかも」
「でっ…でも、土方さんが女性としてあなたを愛していたのは本当ですよ!」
「ふふっ…そうね。私も分かってた。でもあなたとは比べる次元が違ったの。絆の重さが、誰も適わない…だから、せめて私の思いを連れて、山崎さんが江戸に行って。そしたら私も総て納得して気持ちの決着が付く気がするの」

ミツバはそう言って山崎の手を取り、両手で握り締めた。
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