捏造回顧録

□捏造回顧録20
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「荷物届いたか?」
「とっつぁん!」
「おお、届いてるみてえだな。おら、ぼさっとしてねえで着てみろや、その制服」

箱から取り出した服の中からとっつぁんは一着手に取り、近藤に向けて放り投げると、銃口を向けた。

「はっ…はい!只今!」

近藤は慌てて袴を脱ぎ、着替え始めた。

ズボンを履いたが今一洋服という物が分からない。

「そこ、股の所。丸いのあんだろ?それ、ボタンをだな、もう一方に対で穴があんだろ、そこに通すんだ」

ボタンの止め方を教わった。

「次はシャツだ。その白い服だ。袖を通して、さっき教えたみたいにボタンを上から留めてみろ」

言われた通りにシャツを着る。

「裾をズボンの中に仕舞え。その上にベストだ。その袖がない奴だ」
「こんな袖のない服、なんか意味あんのか?とっつぁん」
「意味なんかねえ。ファッションてなぁそう言うもんだ。つべこべ言わずに着ろ」

とっつぁんは引き金に指を掛ける。
近藤は顔を真っ青にしながら言われる通りにベストを着た。

「んで、ジャケットだ。その上着のことだ。羽織ってみろ」

近藤はジャケットを羽織って姿勢を正し、起立の姿勢でとっつぁんに向いた。

「んー…なんか閉まんねえなぁ。刀下げてみろや」

近藤はそっと刀を手に取り、手を震わせながらも腰にゆっくり差した。

「だいぶ形にはなってんだが…何かが足りねえ。何だろうなぁ?」

すると沖田が横から茶々を入れる。

「バナナじゃねえですか?」
「そうだな、試しに持たせてみっか」

どこから取り出したのか、とっつぁんは近藤にバナナを持たせた。

「やっぱ違うな…」
「とっつぁん、違えよ。一本じゃ見栄えが悪くていけねえや。ここは“房”でイキやしょう」

またもやどこから取り出したのか、とっつぁんは房のバナナを近藤に持たせた。
沖田はどーでもいーやと言った顔で、先程の一本のバナナを食べ始めた。

「うーん…だいぶイメージには近けえんだけどなぁ。ちょっとその房、首もとに持ってきてくんねえか?そう…うーん…ま、こんな感じだな」

まさかその姿に納得したのか、とっつぁんは大きく肯いた。

「よし、これで決まりだ!!」

すると土方が沖田の胸倉を掴んで小声で沖田を怒鳴りつけた。

「てめえが変なこと言うから!あんな訳の分かんねえ格好俺達もさせられることになったらどうしてくれんだよ!首もとにバナナの房だぞ!!邪魔でしょうがねえだろ!」
「ちょうど腹減ってたし、良いじゃねえすか」
「よかねえよ!!」

近藤も、さすがに困った顔をしてとっつぁんに意見する。

「だから、そのファッションって言うか…バナナの房とか最早、理解不能なんだけど…」
「俺ぁよう、身なり一つ妥協を許さねえ男なんだ」
「そこは妥協しようぜ!?だって房だよ!?バナナの!モデルが俺だからしっくり来たかもしんねーけど!」
「だぁれがバナナの房身につけろっつったぁ?ちげえよ、タイだよ」

とっつぁんは自分の首に巻いていた真っ白いネッカチーフを外し、それを近藤の首に巻いた。

「お!締まって見えるぞ近藤!」

頬を赤くして起立の姿勢をしている近藤を、とっつぁんは携帯を取り出して写メを撮った。

「ほら、見てみろ」

近藤は、初めて見た自分の隊服姿に感動した。腰には刀を下げている。その姿は随分立派に見えた。

「これは隊長格の制服な。後数枚有るから早いもん勝ちだ。後は平隊士の制服だ。誰が何を着るかはてめえらで決めろ、な。それと近藤」

そう言ってとっつぁんの目付きが鋭くなる。
近藤は一瞬背筋が凍った。

「服装の乱れは隊の乱れだ。てめえがしっかりこの服を着こなして、威厳を保ってくれや」

近藤の肩を一つ軽く叩いて、とっつぁんは去って行った。
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