椿の蕾
□第一章
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ーコツコツコツコツ…
絵麻は学校が終わって買い物も済ませた。後はマンションに戻るだけだ。
父親が再婚し、兄弟が…家族が沢山出来た。兄も弟も。話では科学者をしている20歳の姉がいるそうだ。しかし、海外で活躍しているためかもう、何年も日本に戻ってきていないらしい。しかも昴さんより下と右京さんは会った事が無いそうだ。正直会ってみたい。一週間前やった結婚式にも顔を出していない姉。
「あれ?侑介くん?」
「おう、絵麻。今帰りか?」
十一男の朝日奈侑介くん。私と同じクラスの兄弟だ。
「うん。侑介くんは先帰るんじゃなかったの?」
「そうだったけど…ちょっとゲーセン行ってた。」
と、言うワケで二人でマンションまで帰る事になった。マンションの三階から上が朝日奈家。まあ、十三男もいれば、自然なのだろう。棗さんだけ別で住んでいる。
「うぅ……んぐぅ…」
マンションの前まで行くと誰かがインターホンの前で立って居た。女性のようだが…何故か白衣を着ている。しかも大量の紙袋を持っていて、インターホンを押すかどうか悩んでいる感じだ。
「あの〜どうかしましたか?」
「っ‼」
頑張って声を掛けたけど、その人は酷く怯えて近くの木の裏へ隠れてしまった。
「おい!何とか言えよ!折角絵麻が」
「お前ら…どうしたんだ?」
侑介くんが声を荒げて言うと更に怯えて顔さえ覗かせる事もしなかった。同時に昴さんが帰ってきた。
「あ、昴さん。お帰」
「すば兄ぃいいいいいい‼」
昴さんだと分かった瞬間その人は私の言葉を遮り、昴さんに飛びつくや否や背中に隠れてしまった。しかも、すば兄って…
「「え?」」
「華縁?お前、華縁か!」
「すば兄久しぶり。はい。お土産。」
さっきとは違いとても小さい声だがちゃんと聞こえる。可愛らしい綺麗な声だった。話し方がちょっと淡白な気がする。雰囲気は凄く和んだものだ。昴さんが何故か複雑そうな顔をしているのは気づかなかった。
「日本に帰ってくるなら連絡くれれば良かったのに。いつ来たんだ?」
「みんな忙しいと思ったから…着いたのは半日前。12年ぶりの東京散策しながらちょっと迷ってた。」
日本…つまり長い間、外国に行っていたという事だ。ん?と言う事は…
「「この人がお姉さん!?/姉貴!?」」
「ああ。紹介する。こいつは朝日奈華縁。うちの長女だ。」
彼女は未だに昴さんの背から一向に出ようとしない。ちらちらとこちらを…というか私を見ている。そして、侑介くんと目が合うとまた隠れるのだ。
「すば兄。彼女は…妹?」
「ああ。こいつは絵馬だ。んで、こっちが侑介。お前の弟。」
それを聞くや否や勢いよく背後から飛び出して私の手をとった。
「oh!!my sister!nise to meet you!」
しかも、英語だ。簡単な英語なので私でも分かるが、性格が友好的に変わった事に驚きを隠せない。侑介くんは心ここに在らずで彼女は完全にスルーしている。
そういえば…近くで見ると昴さんに何処と無く似ている。髪の色や跳ね具合。瞳の色なんかそっくりだ。白衣の下は普通の可愛らしいシャツでズボンは少しゆったりとしたものを膝上まで捲っている。ベルトは三つ編み型の茶色のもので少しカジュアルだ。手首に黒の髪留めをしている。見た目は可愛い人だ。背が私より少し低いから余計に可愛いく見える。
「な、ナイストゥミートユウトゥ。」
「あれ〜?なぁにやってんの?」
今度は椿さんと梓さんが帰ってきた。六男と七男。彼らは一卵性双生児だ。遅れて十男の祈織さんがやってきた。
「つー!あー‼……who?」
私の手をぱっと離し、振り返ると一人知らないようでキョトンとした。
「who is this?where is なー?」
「つば兄、あず兄。この子誰?」
「いっぺんに言わなくていいよ。順番。彼は君の弟で祈織。で、彼女は君の姉の華縁。」
「nice to meet you 祈織!」
「君が…初めまして姉さん。よろしく。」
二人は手を取り合って握手する。彼女はニコニコしているけど祈織さんは微笑むくらいだ。
「んで、華縁の最後の質問ね。棗は別で一人暮らしだよ〜。俺らと一緒じゃない理由ね。」
「あれ?知らなかったの?昴から聞いていない?」
二人がそう言うと華縁さんは驚いた顔をして首を縦に振っている。すると二人の視線は昴さんへと向いた。
「え?あれ?俺…書いてなかったか?」
「すば兄…」
彼女はじと〜っと昴さんをみた。
「あ〜…悪かったって。そんな目で見んなよ…」
もし彼に猫耳がついていたなら垂れているだろう。
「あー…ねえ。中入ろう。姉さんだって疲れてるだろうし。絵麻も買い物を仕舞わないと。」
「あ、そういえば…!」
手に持っていた荷物を思い出し慌てて中に入る。
これから私たちの新たな一日の始まりだった。