☆Text-空白の石版-

□第二十七章 解らない
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【SIDE:吠舞羅】


翌朝。

吠舞羅のメンバーは、まだ日も昇りきらない早朝、学園に集まった。

薄暗い朝の光の中メンバーを一瞥すると、草薙は静かに全員に向かうべき場所を指示する。

「―――行くで、お前ら」

草薙が薄く口元に笑みを浮かべて言うと、メンバー達から歓声が上がった。
それは早朝の静けさを震わせる様に、辺りに響き渡る。

その中で伏見は一人、悩まし気に目を伏せていた。


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【SIDE:大蛇】


――――解らない。

俺は目を覚ますと、ゆっくりと時計を確認する。
窓の方へ目をやると、カーテンの隙間から射し込む木洩れ日が床で揺らいでいた。

『は....大蛇―――お前、愛し方も、愛され方も知らねぇんだな』

美咲に突き付けられた言葉が、今も頭の中に蘇る。
俺は薄く唇を開き、それから結んだ。

(....そうだよ、確かにそうだ)

弁解の余地もない。
俺は愛し方も、愛され方も知らない。

そう内心で呟くと、俺は静かに眠る美咲の横顔を眺めた。

(まるでガキだな....)

俺は小さく口元を綻ばせる。
静かに髪を撫でてやれば、美咲は小さく身動いだ。

そんな美咲の些細な仕種すら、自然と俺の心を慰める。
俺は目を細め、美咲の唇に目をやった。

(俺はいつも、この唇を塞いでんだな)

この柔らかそうな唇が吐息を吐く度に、俺はその呼気を奪ってやりたい衝動に駆られる。
美咲の身体に誘われるがままに、彼の事を愛してもいいなら何れ程幸せか。

美咲の事を眺めれば眺める程、愛おしい気持ちは募っていった。
こんな気持ちになるのは、美咲に対してだけだ。

(美咲....)

俺はそっと目を瞑る。

今まで何かを心から求めた事はなかった。
そして親が俺に与えたあらゆるものの中にも、一つとして俺の心を満たすものはなかった。

今思えば、それも当たり前だ。
手に入るものならば求めるまでもない。

手に入らないからこそ、求めずにはいられないのだろう。
そして、自らが求めたものであるからこそ、それによって満たされる事も出来る。

(....あぁ、不毛だ)

手に入らないもの程、気が募る何て。

俺は苦笑すると、再び美咲の横顔を眺める。

あどけない寝顔は、到底年相応には見えなかった。
それでも、この幼い横顔が、俺の欲を唯一掻き立てるものだ。

(美咲、お前は俺に....)

何を伝えたかったんだ?

俺は静かに寝息をたてる美咲の頬に指を滑らせた。

温かい。
指先でふにゅりと押すと、柔らかな頬の温もりを感じる。

(....頬はこんなに柔らかいのに)

俺は再び目を細めた。
この頬に対し、当の美咲本人の性格は柔らかさとは対称的なのだから不思議なものだ。

俺はそう思案すると、ゆっくりと昨晩の事を思い出す。

昨晩はベットに入るなり、美咲にギロリと睨み付けられた。
警戒する様に睨まれ、俺も若干萎縮する。

美咲は、一昨日俺が情事の際にカメラを回した事を相当根に持っている様で、ベットから周りをきょろきょろ確認していた。

(まさかキスの一つもさせて貰えねーとは思わなかった)

そこまで思い出し、俺は小さく溜め息をつく。

美咲の、柔らかさとはまさに正反対の苛烈な瞳。
その瞳がはっきりとした拒絶を示し、俺と身体を重ねる事を拒んだ。

(....美咲)

美咲に拒絶されるのはやはり辛かったが、彼に嫌われるのはもっと怖かった。
一昨日酷く泣かせたばかりだったのもあり、どうしても強く出れなかったのもある。

(....寂しい)

美咲をこの部屋に監禁してからは、ほぼ毎日の様に身体を重ねてきた。
そうだからか、たった一日美咲に触れられなかっただけでも胸に切なさが積る。

「美咲」

美咲が俺を愛してくれる方法が知りたい。

俺は隣で眠る美咲の身体を抱き寄せた。
重心を傾けると、傀儡の様に美咲の身体は俺にしなだれ掛かる。

「ん....ぅ」

その刹那、美咲が小さく呻いた。
熱っぽい声が欲をそそる。

「美咲」

俺は呟き、美咲の額に口付けた。

「....美咲、俺の事好きになってよ」

不意に、苦々しい思いが胸に込み上げて来る。

一昨日美咲が、涙を溢しながら、伏見猿比古の名を呼んだ事。

(....何時になったら、伏見猿比古の事を、忘れてくれる?)

美咲に愛される方法が知りたい。

(どうして、伏見猿比古なんだ?俺じゃ....駄目なのかよ?)

解らない。
一体俺に何が足りないのか。

「解んねぇよ、美咲、なぁ....」

どうしたら、お前は俺を愛してくれる?

美咲の身体を抱く腕に力を込める。
細い身体を手折る様に掻き抱けば、その瞬間ドアの向こうから騒々しい足音が響いた。

「....何だ?」

ドアの方を振り替えって眺めれば、暫くして荒いノック音が聞こえてくる。

「大蛇様!お目覚め下さい、敵襲です!!」

「!?」

ドアの向こうから部下の叫び声が響く。

俺はカッと目を見開いた。

「敵襲....!?」

呟き、俺はベットから身体を起こす。

「ん....」

刹那、背中から美咲の声が聞こえた。

俺はそれに構う余裕もなく、急いでドアをに駆け寄る。
乱暴にドアを開けば、常駐させて置いたボディーガードの男が俺を見下ろしていた。

「何があったか百文字以内で簡潔に説明しろ」

俺が息を切らせて言うと、男は静かに口を開く。

「この建物の入り口を、学生から大人までの数十人が取り囲んでいます」
「なっ....!?」

男の言葉に、俺は再び目を見開いた。

瞬間、頭に浮かんだのは伏見猿比古の事だった。

(まさか、伏見猿比古が....!?)

美咲を取り戻しに――――

瞬間視界が陰る。
くらりと血の気が引く思いがした。

(そんな、まさか....!?あの時の対策は完璧だった筈....どうやってこの場所を突き止めたんだ!?)
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