☆Text-空白の石版-

□第十三章 吠舞羅
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※吠舞羅の方々総出演です

【SIDE:吠舞羅】


「八田ちゃん....今日も学校休んどるん?」
「そうみたいだよ....でもちょっと変なんだ」

吠舞羅の部室。
放課後、草薙と多々良は部員の生徒達の傍らで静かに二人話し込んでいた。

「変て....どういう」
「実は、昨日も今日もね....欠席の連絡が学校に来てないんだよ」

首を傾げる草薙に、静かに言う多々良。
多々良は言いながら草薙にそっと目をやった。

それから、少し後ろめたそうに多々良は首を傾げる。

「それと....実は....俺、草薙先生に隠してることがあるんだ」
「?八田ちゃん絡みの事か?」
「うん....」

八田が学校に来なくなった前日。
保健室で八田と伏見を二人っきりにしてしまった。

二人でじっくり話す良い機会になるかと思ったのだが、もしかしたらそれが裏目に出てしまったのかもしれない―――

そんな旨の事を掻い摘んで説明する。
草薙は聞きながら眉間を少し寄せた。

「八田ちゃんのこの欠席は伏見が原因って事か?」
「....かも知れない。でも俺はそうじゃないと思う....」

多々良は言いながら机をコツンと叩く。

「猿くんと喧嘩したとかなら....八田の性格上何かあったとしても大好きな部活には顔を出すと思うんだ」
「まぁ、せやな....誰にも一言も相談せいで、引きこもっている何て事は考え辛いな」

草薙が言うと、多々良は淡く微笑んで頷いた。

その様子を見ながら、草薙は目を細めて呟く。

「そやけども、二人っきりで保健室....な」
「あ、草薙先生妬いてる?」
「アホ言うな....」

八田と伏見が二人きりで、と言う所が気にくわないのだろう。
草薙は言葉には出さずとも、若干苦い顔をしていた。

そんな草薙を見ながら多々良は静かに笑う。

「あ、それでね....その後保健室で....」

ガラッ....

多々良が言いかけると、部室の扉が開く。
そしてやって来たのは鎌本。

「ちっす、草薙先生....あ、十束先生も!」
「おう、鎌本....ん!?」
「....」

草薙は鎌本に声を掛けるが、鎌本の後ろから部室に入ってきた人物に目を見張った。

「伏見!」
「....ども」

肩身狭そうに部室に入る伏見。
一度止めた部活の部室にまた入るのだから当然だろう。

「....草薙先生、すんません。俺が連れてきました」
「鎌本が?ええけど....どうしたん?」
「....」

相変わらず伏見は口を開かない。
多々良はそんな様子の彼を見ながら目を細めた。

気付けば吠舞羅のメンバーも皆一様に、奇妙な珍客にざわついている。

「猿くん、何か言いたい事があってきたの?」
「....はい」

多々良が小さく伏見に尋ねると、伏見は少し顔を背けながらも頷いた。
多々良は静かに席を立つと、伏見の傍まで歩み寄る。

伏見は窮屈そうに眉をひそめ、それから口を開いた。

「あの....出来たら、先生方だけにして....貰えますか」
「人に聞かれたら困る話?」
「....はい」

伏見の言葉に、多々良と草薙は顔を見合わせた。
それから草薙も席を立つ。

「そないなら、俺らが場所を変えようか」

言いながら鎌本と伏見に小さく笑い掛けた。
伏見はその微笑みにも少し堅くなる。

「じゃあ生物研究室は?今なら多分誰もいないんじゃないかな」
「せやな....物置みたいな狭い場所やけど」

そんな伏見を横目に見ながら、多々良は草薙に声を掛けた。
草薙は小さく頷きながら返す。

その様子に、伏見はばつが悪そうに目を泳がせた。

「すみません」
「何謝ってんのや、伏見」

伏見が小さく謝ると、草薙は淡く笑う。
それからポンと伏見の頭に大きな掌を載せた。

「お前がここまで来るんや。八田ちゃんの話やろ」
「....!」

草薙に心中を看破され、伏見は黙り込む。
それから俯くと、小さく舌打ちした。

「それじゃあ、俺と猿と、先生二人で」
「了解」

折を見て鎌本が言うと、多々良がにこりと笑ってそれに応える。

そして四人は連れだって部室を後にした。


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―――生物研究室にて。

草薙が周りに配慮して、部屋に鍵を掛ける。
そして伏見を一瞥した。

それを受けて、狭苦しい空間の中伏見は話し始める。

「....実は、この話には三年の八岐大蛇が絡んでる」
「!」
「何やて....!」

瞬間、多々良と草薙の顔色が変わった。

「伏見、どういう事や」
「....八岐大蛇は」

伏見はぽつりぽつりと自分の体験したことを話し始める。
予め伏見から一通りの事情を聞いていた鎌本が時々言葉を助けながら、それは長い時間掛けて語られた。

伏見が話し終わると、草薙と多々良は互いに厳しい顔を見合わせる。

草薙が腕を組みながら眉を顰めて呟いた。

「相手はあの八岐大蛇や....監禁位お手のもんやろな」
「そうだね....」

八田....

多々良は小さく呟く。
普段の柔和な表情の多々良らしからぬ真剣な表情。

「そっか、話してくれてありがとう猿くん」
「....いえ」

伏見はぼそりと返事をすると、続く思いを呑み込む。

―――本当は伏見は、吠舞羅のメンバーを巻き込みたくなかった。

けれど自分一人ではどうすることもできない。
自分一人では、八田を助けられない。

(―――チッ)

伏見は心中で舌打ちして俯く。

伏見は彼らに頼るしかなかった。

「せやな、伏見に、鎌本も」
「とんでもないっす。八田さんの為ですから....」
「....」

草薙も多々良同様二人に声を掛けると小さく口端を持ち上げる。
年長者としての責任感が、草薙の心を少なからず支えていた。

自分まで陰気な顔をしている訳にはいかないと、草薙は自分に言い聞かせて口を開く。

「多分、その話を聞く限り八田ちゃんは八岐大蛇に誘拐されたと見て間違いないな」

草薙は低い声で場の一同に言った。
多々良が瞬間目を伏せる。

「八岐大蛇は....八田にそこまで執着してるんだね」

―――相手が八岐大蛇だからこそ、解る気がする。

多々良は小さく呟いた。
その言葉に伏見は眉根を寄せる。

「どういう意味ですか」
「....八岐大蛇は....孤独な人だから」

多々良は目を細めて言う。
多々良の脳裏には、八岐大蛇の深い紅の瞳が浮かんだ。

吸い込まれそうな、孤独な深い瞳。

「....多々良先生」
「!ごめん、何はともあれ....八田を助けないとね」

不意に草薙に名前を呼ばれ、多々良ははっと顔を上げた。
伏見も怪訝そうな顔はしたものの、それ以上何も言わなかった。

「先生達から、八岐大蛇に対して強く出られないんすか?」

場を見つつ鎌本が口を開く。
その言葉に草薙は表情を曇らせた。

「....すまんな、学校が八岐大蛇に対して何も言えへん立場なんや。俺達も教師としては彼奴に何も言えへん」
「そうっすか....」

草薙の言葉にしゅんと項垂れる鎌本。
鎌本も一日でも早く八田を救いたい気持ちは同じだった。

「でもな、先公としては何も役にたたへんだろうけど....草薙出雲個人としては、全力で協力すんで」
「!草薙先生....」

草薙は静かに鎌本の方に手をおく。
励ますように力強く言えば、鎌本ははっと顔を上げて頷いた。

その様子を見て、伏見が口を開く。

「でも、どうしたら八岐大蛇から美咲を取り戻せるんでしょう」
「....せやなぁ、やっぱ大蛇の所行って自家談判しかないんかなぁ....」

「....でも草薙先生、八岐大蛇本人も八田が学校を休みだしてから、学校に来てないですよ」

悩む二人に、多々良が小さく追い打ちを掛けた。
二人はその言葉に一層頭を抱える。

「なら、八岐大蛇は今も、八田さんと一緒にいるんすかね....」
「誰にも干渉されん様に、誰の声も届かん所に八田ちゃんを連れ去って.....二人だけの世界っちゅう事かいな」

鎌本の言葉に草薙は呟いて小さく溜息を吐いた。
草薙の心の内に、嫌な想像が渦巻く。

年頃の男が、惚れた相手である八田を監禁して....何をするか位は容易に想像できた。

(....八田ちゃんなら、大丈夫や)

草薙は小さく胸の内で呟き、自らの想像を振り払う。
草薙自身にとっても大切な八田が、八岐大蛇によって辱められている何て考えたくなかった。

「....それなら、美咲が監禁されてる場所を突き止めて....俺達自身で助けに行ったらいい」

不意に伏見が口を開く。
その目には怒りが渦巻いていた。

「俺が監禁された場所は高いビルだった。多分....他にも八岐大蛇は自分の場所を持ってる....そこを探す」
「....猿くん」

憎々しげに言う伏見に、多々良は小さく呟く。
多々良にも、伏見の気持ちは痛いほど分かった。

「まぁ、待ってても返してはくれへんやろうなぁ....」

草薙も小さく呟く。
そう呟きながらも、たった四人で場所を突き止め、八田を助け出すのは至難の業だと内心では思っていた。

それでも、他に方法がない。
今はそれしかないのか。

眉をひそめる草薙に、伏見は苦しげに呟いた。

「美咲....」
「猿....」

伏見は小さく呟くと、きゅっと拳を握る。
そんな伏見を見て、鎌本も口を開いた。

八田の事を幼い頃から慕っていた彼も、八田を思う気持ちは人一倍だ。

「....大丈夫っすよ、皆で八田さんを助けましょう!!」
「....鎌本」
「見つかりますよ!きっと!!へーきへーき、何とかなる!そうですよね....十束先生!!」

不意に鎌本が声を上げて、多々良の口癖を言うものだから、教師二人は呆気にとられてお互いに顔を見合わせた。
それからくすりと吹き出す。

鎌本の一言が、教師二人の心を瞬間解きほぐした。

「せやな、誘拐ゆうても相手はガキや....そんな周到な事は出来へんやろ」
「そうだね、へーきへーき!何とかなるよ!」

二人がそう言うと、伏見も静かに顔を上げる。

無言のまま目の前の三人を見やると、唇を噛んだ。
その様子に、多々良は静かに目を細める。

そして、そっと微笑んで言った。

「みんなで絶対八田を助けよう―――」
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