☆Text-空白の石版-
□第十一章 残り香
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【SIDE:猿比古】
美咲の事を"そういう目"で見たのは何時からだったか。
美咲と一緒の中学時代。
体育の着替えの時とか、ふと気付いた瞬間には、俺の視線は美咲を追っている様になった。
(腰....細....)
美咲の腰の細さにドキドキして、精通もまだだったのに何処か身体が可笑しくなる様な感覚を味わった。
触れてみたいと、思ったこともあった。
ましてや、壊してみたいとも.....
それが何という感情なのかは解らなかったが、その感情は酷く俺を高揚させた。
酒や薬に酔う様に、俺の心を甘く蝕む。
そして幼い俺は漸く思い付いた。
(ああ、美咲は"トクベツ"何だ)
焦燥、渇望、熱情.....
どんな感情も美咲の前でしか沸き上がらない。
痛いほどの寂しさも、融けてしまいそうな喜びも....美咲の前でだけ。
昔から女には興味がなかった。
だからと言って男に興味が有るわけでもなく。
....思えば、誰かに、何かに執着したのは初めてだった。
「美咲」
「ん?何だよ猿....うわっ!?」
あの頃、中学の頃....一度だけ美咲を押し倒した事がある。
体育倉庫に二人で入った拍子に足滑らせた振りして、美咲に覆い被さった。
「は、ちょ....猿?」
美咲はあの小さい体を捩って俺から逃れようとして、その仕草がもう可愛いかった。
俺は目の前の美咲の身体を前にして、漸く自分の胸に潜む感情を知ることになる。
(キスしたい....)
親友に、男に、美咲に―――
有り得ないとは思わなかった。
妙に納得した。
俺の世界には美咲と俺しかいなかったから。
愛というものが存在するなら、それは唯一の相手である美咲との間にしか生まれないと。
「猿比古....?」
美咲は不安そうに俺を見ていた。
そして俺は、もう一つ、大事なことがあると気付いた。
「....美咲」
―――美咲は、俺を愛しているのだろうか?
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「チッ―――」
放課後、俺は美咲の教室で舌打ちした。
目の前には胸くそ悪い三下の顔。
「八田さん、今日は学校来てねぇんだよ」
「チッ、んだってんだよ....」
三下の言葉に俺は舌打ちした。
三下も嘘を言っている様子ではなく、困惑しているのが見て取れる。
(チッ....習慣にしようと思ったのによぉ....!!)
昨日俺と美咲は保健室でセックスした。
そして、一緒に帰った。
大事なことなので二回言おう。
セックスした。
そして、一緒に帰った。
....これはもう、習慣にしていかなければと思う。
昨日を境に、これからは毎日美咲は俺と一緒に帰る習慣を付けよう。
そう思って教室を訪ねた矢先だった。
今日は部活も無い日だし....勿論俺は美咲の部活スケジュールは完璧に把握している....何だかんだ丸め込んで一緒に帰ろうと思っていたのに。
「....チッ、美咲いねぇなら帰る」
「おい、猿....待て」
俺が踵を返して帰ろうとした時、三下が俺の服の裾を掴んだ。
ちょっと、何してんだよ.....
そこ掴んでいいのは美咲だけ何ですけど。
「あぁ!?雑魚はお呼びじゃねぇんだよ!!?」
俺はギロリと三下を睨み付けて凄む。
しかし三下も引き下がらない。
俺の服をがっちり掴んだまま俺を睨む。
「猿....テメェ八田さんに何かしたんじゃねぇだろうな....!?」
「は....別に、何も」
セックス以外は.....
そこで俺は気付いた。
そうか、美咲は俺とセックスしたのが恥ずかしくて学校に来れなかったんだ!!
「何も...あーっ、やっぱり有ったかもぉ」
「あぁ!?テメェ八田さんに何を....!!」
俺がニヤリと笑いながら言うと、三下はキッと眼光を鋭くして俺に食ってかかる。
俺は愉悦ここに極まれりといった様子で右手をひらつかせて見せた。
「何って....ナニをだけどぉ....?」
「!?」
刹那、硬直する三下。
口元に弧を描く俺。
ちょっと静かになる教室。
「なっ....お前....ナニって....」
「だからぁ....俺の、ナニを、美咲の可愛いアソコにナニしたんだよ!」
「何ぃ!!?」
三下の言葉が心地よく耳に響く。
これが美咲を手に入れたと実感する瞬間と言う奴だろうか。
他人に対し、美咲とチョメチョメしちゃいましたと言うこの愉悦。
某英雄王も笑い出すだろう....
「まさか....そのせいで八田さんは傷付いて....!!」
「ふふ....身体的にもな」
「黙れ!!」
三下は俺を前にして怒号を飛ばした。
....昔から思っていたけど此奴は一体美咲の何だって言うんだ。
いつも美咲の周りをちょろちょろしやがって。
まぁいいけどな、式には呼んでやってもいいぞ。
美咲の一番の友人だった俺が新郎じゃ、美咲の友人ポジとして言葉読む奴がいなくなっちまうからな....
「八田さん!!大丈夫っすか!八田さん!!」
「ん?」
気付けば俺を振り払って三下は既に廊下に出ていた。
そして携帯に向かって熱心に話し掛けている。
「何やってんだ三下」
「あぁ!?八田さんに連絡してんだよ....八田さん、八田さーん!」
チッ、美咲と会話するのとか俺だけでいいのに。
余計なことすんじゃねぇよ。
美咲は俺だけ見てれば良いわけで。
美咲の視界に三下とかand moreとか入れたくない。
「....つながらねぇ」
「ハッ....三下からの連絡だからな」
「.....」
流石俺の美咲。
俺以外の男からの着信には応答しないとか流石美咲。
俺の天使。
美咲マジ天使えんじぇる。
「仕方ねぇ....見舞いに行くか....」
「あぁ!?三下が何出しゃばって....」
三下は呟くと俺を無視して歩き出す。
此奴まさか本当に美咲の家に行くと言うのか。
何れ俺と美咲の愛の巣となるであろう、美咲の家に。
そして何れ俺が美咲をハメ回す時に使うベットに腰掛けちゃったりする気か?
そうはさせねぇぞ三下ぁあああ!!
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「―――で」
「....」
「何で猿が付いて来てんだ!!」
俺はお見舞いに付いていった。
「チッ、三下ぁ....お前はもういいから帰れよ」
「帰る訳ねぇだろ!!テメェと八田さん二人にしたら何が起こるか!!」
美咲の家に付くまでの道中三下と二人きりとか死ぬかと思ったが、三下を一人で美咲の家に上げるよりはマシだ。
俺は美咲の家の扉の前で瞬間立ち止まった。
そして、ゆっくりと呼び鈴を鳴らす。
ピンポーン―――
辺りに呼び鈴の音が響いた。
「あ、猿テメェ何勝手に」
「ガタガタ騒ぐんじゃねぇよ三下、とっとと入りてぇんだ俺は美咲の中に」
「八田さん家の中に、だろうが!!」
二人でくだらない問答をして時間を潰すが、美咲は出てこない。
外出中だったのだろうか。
(チッ、どういう事だ....?)
何故か、妙に嫌な予感がした。
まるで、美咲がもう、俺の元へは帰ってこない様な....
俺は舌打ちして、仕方なく美咲の家の合い鍵を出して扉を開けた。
「美咲!!」
「ああ!?合い鍵!?」
背中に叫ぶ三下の声を聞きながら、俺は美咲の家の中へと乗り込む。
「オイ猿お前合い鍵なんて何処で」
「チッ、うるせぇな....作ったんだよ!!こっそり型取って....」
「それ犯罪―――!?」
そして玄関を見て俺は一瞬戸惑った。
「....靴が....全部有る」
「え....?」
「チッ、美咲の靴が三足全部揃ってるっつってんだ!!」
美咲の靴が有る。
外出中なら、美咲の靴がここに有るはずがない。
美咲の靴は全部で三足。
それが全部ここにある。
それなら、美咲は家にいる筈だ。
(けど....なんだ、この違和感は....!?)
そうだ、この玄関、何処か可笑しい。
そう思って俺ははっと気が付いた。
「靴が、"揃ってる".....!?」
有り得ない。
美咲が靴を揃えている何て絶対にない。
俺は中学時代、美咲の家に行くと何時も玄関に靴が脱ぎ散らかして有るのを見ていた。
今だって様々な場面で、体育館シューズ脱ぐときとか....靴を脱ぎ散らかしてる所を見ている。
「どう言うことだ....ッ」
「猿....お前」
ずっと美咲を見ていた俺だから解る。
何処か可笑しい....。
「美咲!!何処だ!!返事をしろ!!」
そう思えば俺はいてもたってもいられずに家の中に駆け込んだ。
背中から三下のstkと言う呟きが聞こえた気がしたが気のせいだろう。
「美咲!?おい、美咲ぃ!!」
不意に胸の内の不安が大きくなっていく。
その瞬間、頭をちらついたのは昨日、俺を拘束した男の事だった。
(チッ、そんな訳....っ!!)
「八田さん!!八田さーん!」
「美咲ぃ!!」
そして俺は全ての部屋を見て回って愕然とする。
「いない....?」
まさかとは思ったが、本当に何処にもいないなんて。
しかも、いないだけじゃない。
「残り香がしない....」
俺はきゅっと拳を握った。
拳が震える。
美咲がついさっき出かけたとかなら、何となく解る筈だ。
外でも美咲の香りは解るくらいだ。
それなのに、どの部屋からも美咲の残り香を感じなかった。
少なくとも一時間や二時間の外出じゃない。
「ハァ、猿....そっちは....」
「いねぇよ....」
美咲が何処にもいない。
そんなの、耐えられない。
「みさき」
美咲。
美咲、美咲、美咲、美咲美咲美咲美咲美咲――――
(まさか、本当に八岐大蛇に.....!?)
俺はぞっとした。
八岐大蛇はあの時俺を拘束した。
そして、美咲に対して並なら無い執着を見せた。
『何だってするさ―――美咲を手に入れる為ならなぁ!』
八岐大蛇の言葉を思い出す。
そうだ、彼奴は言った。
何でもする、と.....。
(俺のせいだ....)
俺が、もっとちゃんと美咲に警告しなかったから。
美咲のことを、ちゃんと見て、無かったから.....
「八岐、大蛇―――」
「!」
俺が呆然として呟くと、三下が表情を強ばらせた。
「おい!猿!!....八岐大蛇って....」
「....」
三下に肩を掴まれ、身体を揺さぶられる。
俺は抵抗する気力も持てずにただ肩を強ばらせた。
「お前は....何を知ってるんだ....?」
三下の目が、俺を捉える。
俺は呆然として唇を震わせた。
「もしかしたら―――」
信じたくなかった。
考えたくもなかった。
もう少し待っていたら、新しく買った靴をひっさげて美咲が帰ってくるような気がした。
けれど、俺はその不安を押さえられず、とうとう呟く。
「―――美咲は、八岐大蛇に誘拐されたのかも知れない」
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伏見君は犬か何かなのでしょうか。
残り香ネタを知ったときには心底戦慄しました。
まぁ八田ちゃんもチワワだし、犬同士染色体の数も一緒ですよね。
これで猿美の愛の障害は何もないわけです。
えっXY同士?
新しいポケモンの話?