☆Text-空白の石版-
□第九章 臆病な人
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【SIDE:美咲】
俺....猿比古とセック、ス....しちまった....!?////
俺は一人羞恥に顔を覆った。
思い出すだけで恥ずかしくて死にそうになる。
嘘だろ?
俺が、猿比古と、せ、セックス....!!?
女とだって、まだなのに。
(しかも学校の保健室で!!////)
俺は静かに周囲を片づける猿比古を横目に眺めながら、さっきまで猿が占有していたベットに横になる。
腰とか後ろとか痛くてとてもマトモに動けなかった。
だから仕方なく後片付けは猿比古が一人でやっている。
ベットにぶちまけた猿比古の精子とか.....俺の精子とか.....を拭き取ったり。
ぐちゃぐちゃにされた俺の密壺の中の精子掻き出したりとか....。
てきぱき片付けを進める猿比古ってホント要領がいいっつーか。
た、頼りになると、いうか.....。
いや、そんな訳あるか!!
突然手ぇ出してきて俺の事滅茶苦茶にしたんだからこれくらい当然だ....。
格好良く何かねぇよ!!
(猿比古....////)
不意に、情事の最中の猿比古が思い出される。
その瞬間、きゅんと密壺が痙攣した。
「.....!!////」
その刺激で、残っていた猿比古の精子が俺の太股を伝う。
ああ、どう考えても事後だ....。
(やっぱ、ホントに俺....猿比古に犯されちまったのか....!?////)
嘘だろ、猿比古とセックスしたなんてやっぱ有り得ねぇよ。
いや、やっぱ違ぇ....セックス何てしてねぇ筈だ。
セーフだ!
セーフ!!
セーフに決まってるっつの、多分....。
だって俺そんなこう何、全然乱れてねぇし。
多分エロい声とかも上げてねぇし....。
絶対セーフだ!
セックスってのはもっとこうエロくてやらしくて....卑猥な嬌声と水音が....って俺は何を考えてんだよぉおお!!////
まぁ、何だ、ともかく俺と猿のあれはそ、そういうんじゃなかった!
セックスじゃねぇっ!
セウト....いや、セーフ!!
だから俺は猿比古とセックスなんてしてねぇんだ!!
「みぃさぁきぃ」
「!!」
不意に猿比古に声を掛けられる。
ねっとりした嫌らしい声に背筋が震えた。
「どうしたんだ美咲?もしかしてまだし足りないとか?」
「っな、んな訳あるかよクソ猿!!////」
猿比古は気持ち悪い位上機嫌だった。
にやにや笑いながら、優しく俺の傍に身を寄せる。
(猿比古....?)
猿比古が俺の傍に寄り添うと、俺の心臓は何でか一瞬強く脈打った。
俺、もしかして猿なんか相手にドキドキしてる....?
猿比古は固まる俺を優しく見つめると、俺の太股を伝う精液に気付いて小さく笑った。
「美咲、まだ俺の残ってたんなら....言えよ」
「るせぇ....」
言えなかったんだよ。
俺は言葉の続きを呑み込んで俯いた。
頬が熱い。
どうしよう、マジで溶けるぞこれ。
その位恥ずかしい....!!
猿比古が俺の密壺の中に指突っ込んで、自分が出した精液を掻き出していた時.....正直俺は気が気じゃなかった。
猿比古の長い指が、俺の密壺の中を掻き回すたび、変な声出そうになって....。
でも、そんなん悔しいから、必死に我慢してたんだ。
もう早く終われとしか考えられなかったっつの。
「なぁんだ、美咲って素直じゃねーな....」
「っ、何の話だよ....」
俺が黙っていると、猿比古の嬉しそうな声が降って来た。
怪訝に思い彼の方を振り向くと、やっぱりにやにやしてやがる。
「美咲、俺の精子掻き出して欲しくなかったんだろぉー?」
「んなぁ!?んな訳あるかこのクソ猿!!////」
猿比古に言われ、俺は真っ赤になった。
ぶんと右手を振り上げると、ぱしんと猿比古に捕まれる。
「そんな可愛いことしなくても、美咲はもう俺のもんなんだから....」
「は....っ?」
猿比古は口元に弧を描くと、右手でそっと俺の下半身を指さす。
俺は直ぐに猿比古が何を指さしているのか理解して赤面した。
名前、だ。
密壺に橋を掛けるように書かれた、"伏見猿比古"の文字。
「もう美咲は"伏見猿比古"....俺のものなんだから」
「てめぇ....っ、ホントに死んどけよっ....!!////」
あの時の屈辱を思い出して、俺は猿比古を睨み付けた。
本当、これだけはマジであり得ねぇ。
信じられねぇよこれ。
俺これ見るたびに今日の事思い出すじゃねぇか。
クソ、いつ消えるんだよこれ。
マジックだから頑張って洗えば取れるか....?
「美咲、何可愛い顔してんの?」
「はぁ!?」
俺が一人悶々としてると猿比古がぽつりと呟く。
驚いて顔を上げると、猿比古の顔がすげぇ近くに迫ってて、息が止まるかと思った。
「きゃああああっ」
「お前今でもその悲鳴なんだな」
思わず俺が悲鳴を上げると、猿比古は軽く嘲笑する様に呟いて鼻で笑ってみせる。
ふざけんなこのクソ猿。
ぜってぇ後で泣かすからなっ....!!////
「今美咲さぁ、俺の事だけ考えてるよなァ」
「....?」
むくれる俺に、嬉しそうに呟く猿比古。
何なんだよ此奴、勝ち誇った顔しやがってうぜぇ。
「....猿」
俺はそれが地味に気にくわなくて、ふてくされた様に呟いた。
名前を呼ばれて猿はそっと視線を俺と合わせる。
「何、美咲」
「っ....多々良先生、いつ戻って来るかわかんねぇし....さっさと片付けて帰るぞ」
「....」
多々良先生にこんな所見られたら、俺どんな顔したら良いのか解らねぇよ。
笑えばいいと思う?
無理に決まってんだろ!!!
猿比古は少しつまらなそうな顔をしていた。
それから小さく舌打ちして俺から離れる。
「多々良センセイね.....」
途端に不機嫌そうな声になる猿比古。
俺なんかまた不味いこと言ったんだろうか。
もうホントにわかんねぇよ猿の気持ちって....。
(猿比古、俺....本当は)
お前の気持ち、解ってやりたいのに。
その後俺達(主に猿)は保健室の片付けを済まして漸く帰路についた。
もう空は薄赤に染まっており、部活は終わってる時間だ。
そう言えば、猿比古と一緒に帰る何て、何時振りだろう。
「クソっ痛ぇ....」
「大丈夫か?美咲」
「テメェのせいだろハゲっ....」
俺はふらふらしながらも猿に肩貸して貰って何とか歩く。
勿論あれはセックスでは無かったとはいえ、俺の身体にかなりの負担を掛けたのは確かだ。
腰もケツも何もかも体中節々痛い。
俺が怒って猿比古を睨み付けると、猿比古は少しだけ目を細める。
そして静かに俺の名前を呼んだ。
「....美咲」
「あ?」
俺は猿比古の態度に一瞬内心で戸惑う。
まるで、捨てられた猫の様な表情。
昔から、猿比古は時々こんな表情をした。
そう言うときは、大体何かを後悔してたり、辛かったりしたときだ。
そっと猿比古は口を開く。
こぼれ落ちた声はとても小さく、聞き逃してしまいそうな程か細かった。
「嫌だった?」
「は.....」
瞬間、心臓がトクンと脈打つ。
妙に周りが静かになった様な気がして、居心地が悪かった。
(嫌だったかって....んな事)
せめて、普段通りのねっとりした嫌らしい声で聞いてくれれば。
そしたらまだ.....嫌に決まってんだろクソ猿二回死ね!....ってすんなり返せたのに。
「....ゃ」
俺は言葉に詰まって、俯いた。
....あんな事、嫌だったに決まってる。
だってケツにアレぶち込まれてんだぞ?
良いわけねぇよ。
(凄ぇ痛かったし....)
でも、猿比古とだったら?
「嫌に決まってるだろ....俺、男だし」
「....」
そうやっと言葉を吐き出して顔を上げると、猿比古の切ない瞳が視界の中で揺れていた。
(んだよ、その顔....)
その顔、止めろよ。
俺、お前のそんな顔見てたくねぇよ。
(何でそんなに泣きそうなんだよ)
猿比古に。
何時も憎まれ口ばっか叩く猿比古に....そんな泣きそうな顔似合わねぇよ。
つーか、止めろよ。
俺まで何か辛いじゃねぇか。
「おい、クソ猿!!」
「....んだよ、童貞」
童貞は関係ねぇだろ。
ホントこのクソ猿は何時でも憎まれ口だけは叩きやがって....!
「あのなぁ、嫌とかそう言うの以前によぉ....!てめぇの下手くそなセックスで良くなる訳ねぇだろ!!」
俺はたまらず叫んだ。
人気のない道に、俺の声が反響する。
「は....」
猿比古は瞬間驚いて目を見開いた。
情けねぇ声も漏らして俺を見る。
「だ、だからよ....上手くなって出直して来い」
「....み、さき....」
恥ずかしい俺何言ってんだ。
しかもさり気なくセックスって認めちまった。
「....美咲」
「ハッ、テメェみてぇなオナニー野郎には百年掛かっても無理だろうけどな」
俺は羞恥心から早口で捲し立てる。
対し猿比古は妙に静かだった。
クソ、恥ずかしいだろ何か言えよ!
俺は悔しさから猿比古を睨み付ける。
これじゃあ俺まるで猿比古としてぇみたいじゃねーか。
んだよ、ここまで俺がクソ恥ずかしい思いしてるってのに、これでも不満かよ。
(....それとも....また俺何か間違えた....?)
不意に、不安になった。
俺は反射的に猿比古の瞳の奥を探る。
その瞬間、猿比古が笑った。
「っは....美咲、お前ってよぉ....本当、馬鹿」
「んな....何だとこのヤロッ!!」
さっきまでの泣きそうな猿比古は何処へ行ったのか。
猿はもう嬉しそうに笑っている。
何なんだよ、ホントによぉ....。
「チッ、悪かったな、美咲」
「へ」
不意に猿比古が謝った。
瞬間凍り付く俺。
猿比古が....謝る、何て。
何だよ今日はちょっと素直じゃねぇか....
「痛かったんだろ....童貞の美咲が処女を失った瞬間」
「お前本当に謝る気あんのかよ....っ!!」
前言撤回。
猿比古はやっぱ何時も通りふてぶてしくてウゼェ。
「今度はちゃんともっと気持ちよくしてやるから、覚悟しろよ....美咲」
「っ....////」
俺、墓穴掘ったよな。
どう考えても。
やめときゃ良かった。
(でも....猿比古、元気になったな)
もうヘラヘラ笑ってやがる。
ふと猿比古の顔を見上げると、猿比古と目があった。
「っあ....」
「ん?どうしたみぃさぁきぃ?」
その瞬間猿比古のうざい声が道に響く。
俺は混乱して真っ赤になる。
猿比古はにやにや笑いながら俺を抱き寄せた。
「っな、何しやがる....」
「美咲、ついたよ」
俺が吠えようとすると、猿比古は直ぐに俺を解放する。
それから優しく言うと、ぴっと俺の住んでいるアパートを指さした。
「あ....もーついたのか?」
なんか、あっという間だったな。
俺んちまぁ、元々そう遠くないんだけど。
「そう言うこと」
「....」
猿比古は薄い笑みを浮かべて腕を降ろした。
「....ん、そっか」
俺は小さく呟く。
猿比古とも、ここでお別れか。
(久々に、あの頃みたいに....一緒に帰ったな)
「じゃ、猿比古.....また明日っ....あっ」
「....」
また明日じゃねぇよ!
何中学の頃に戻ったような気分になってんだよ。
あー、クソ!
猿にやにやしてるし!!////
此奴とは顔はち合わす度に喧嘩してるじゃねぇか。
此奴は吠舞羅の裏切りもんだぞ!?
しっかりしろよ俺!!
「くッ、はは....美咲ぃ、たまんねーなお前はよぉ」
「る、るっせぇ!!何笑ってんだよ!!殺すぞ!!////」
ちくしょうこのクソ猿....。
ここぞとばかりに笑いやがって....!
「....殺す、ね」
「ん、んだよ猿....ひびってんのか?」
不意に、猿比古は瞬間真顔に戻って俺の言葉を復唱した。
それから少しだけ考え込む様に口を噤む。
「?猿比古....?」
「美咲」
俺が不思議に思って名前を呼ぶと、猿比古も俺の名前を呼んだ。
それから、猿比古の真剣な瞳に見つめられる。
(え、何....)
「美咲、八岐大蛇って....知り合いか?」
「え、大蛇?」
不意に猿比古に尋ねられて、俺は首を傾げた。
なんで此奴が大蛇の事知ってんだ?
「大蛇ならダチだけど」
「..........チッ」
長い沈黙の後、猿比古は何も言わずに舌打ちした。
ホント何が気にいらねーんだ此奴は一々よぉ。
「....何時から?」
「ん?昨日からだよ、昨日廊下でぶつかって....メアド交換して....」
「....チッ」
また舌打たれた。
猿比古はちょっと怖い位の目つきで俺を睨む。
「....変な、事とかは」
「ハァ?んだそれ?」
猿比古の言葉に俺は大きく首を傾げた。
大蛇の話からどうしてそうなるんだろう。
「....」
「何なんだよ一体?」
俺が尋ねると、猿比古は一瞬目を泳がせた。
それからくるりと俺に背を向ける。
「別に、何もないならいいんだよ」
「ん、おい、猿っ?」
猿比古はそれだけ言うと、振り返りもせずに歩き出した。
「じゃあな、美咲」
「ハァ!?おい....さ」
「また明日、だろ」
「!!////」
俺は猿比古の言葉に硬直した。
本当にムカツク野郎だ!!
昔からそうだった。
彼奴、昔っから全っ然変わってねぇな!!
(....彼奴は、彼奴なんだよな)
俺は胸の内でそっと呟き、軽く拳を握り詰める。
それから猿比古の背中に舌だしてやって、家に戻った。
....このとき、俺も猿比古も気付いていなかった。
物陰から、誰かが俺達の様子を監視していた事に―――