☆Text-空白の石版-

□第八章 正義
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※ほんのりSIDE:REDネタ

【SIDE:大蛇】


(伏見猿比古....か)

俺に逆らう奴が、美咲以外にもいたなんてな。

俺は静かに口元に弧を描いた。
そっと歩を進めると、今朝方伏見猿比古を拘束した椅子に指を這わせる。

(美咲を手に入れるために....一番の障害になるのはやっぱり彼だったか....)

美咲の過去、趣味、交友関係....果ては学力まで。
調べられる事は皆調べ尽くした。

そして分かったのは、伏見猿比古と美咲が、けして短くない間二人きりの世界を持っていた事。

(二人の間には確かな絆がある....)

初めは、伏見猿比古をちょっと脅してやって、美咲との絆を完全に断ち切らせるつもりだった。
けれど、伏見猿比古は恐らく何をしてもそれだけはしないだろう。

何故か。
それは火を見るよりも明らかだ。

「伏見猿比古の一番大切なものが....八田美咲だから」

俺は小さく呟いた。

ガラス張りの壁から紅い光が射し込む。
その光は俺の輪郭をはっきりと床に描いた。

明るい光の中、床にどす黒い影が踊る。

「俺と同じ」

俺は再び呟くと、静かに瞳を閉じた。
瞼の裏に映るのは、美咲と初めてあったときの事。

そして彼に、"大蛇"と、俺の名前を呼んで貰った瞬間だった。
その瞬間を思い出すだけで、胸が熱くなる。

(まさか俺に....こんなに執着するものが出来るなんて....)

―――俺は、生まれながらの強者だった。

八岐コーポレーションの社長の一人息子。
それだけで、大抵のものは手に入った。

両親は俺の傍には殆どいられない代わりに、金で買えるもの全てを俺に与えた。

良くある話だ。

新作の玩具、従者、ビル、それから....権力。
今俺がいるこの部屋も、親父からプレゼントされたビルの一部屋だ。

俺に逆らう奴はいなかった。
俺は圧倒的強者だったからだ。

親父は俺を可愛がった。
自分が傍にいられない分、俺の望みは何でも叶えてくれた。
気に入らない奴を締めるのも、気に入った奴を諂わせるのも、俺の思いのまま。

喧嘩が強い訳でもなく、俺は王様扱いだった。

しかし、ここからも良くある話だ。

そんな親に甘やかされて育った馬鹿息子は、そのうち世界を愛せなくなった。

どんなものでも手に入るから。
どんなものでも壊せるから。

いつだって正義は俺にあった。
俺は"強い"―――

獣の世界は弱肉強食。
しかしそれは獣の世界だけの理ではない。

人間の世界だってそうだ。

俺が八岐コーポレーションの跡取り息子だと言うだけで、みんな勝手に俺を畏怖した。
次第に、俺は肩書きだけで周りの人間に怖がられる様になった。

誰も俺に逆らわなかった。
自分が一番可愛いからだ。

("ヤマタミヅチ"....)

俺の名前である"ミヅチ"は、ある元医療関係者の男に因んで付けられた。
"何処までも理想を追求し、限界を超えられる者になって欲しい"そんな願いが込められているらしい。

....まぁ結局其奴失脚したらしいが。

でも、俺の人生はこんなもんだ。
人生ベリーイージーモード。
何処かの某可愛いだけじゃなく優しい完璧な美少女の様に、人生で思い通りにならない事なんてなかった。

それなのに、一体どう理想や限界を見つければいいと言うんだろう。

まさにこの世界は灰色だ。

くだらない人間達と、他愛ない壁に囲まれた世界。

そう言えば、こないだ締めたS高の男もくだらない奴だったな。
いやまぁ、人間なんて....皆あんなものか。

ほとほと嫌になる。
渡る世間はクズばかりだ。

そんな風に思っていた最中、美咲にぶつかった....いや、違うか....ぶつかられた。
そして、美咲のあの大きな瞳に俺の姿が映ったんだ。

―――美咲の綺麗な瞳に、こんな汚れた俺の姿が映って良かったのかな。
それとも、彼の瞳の中なら、俺も少しはましな姿で映っていたのだろうか。

最初の印象は「んだこのクソチビ」って感じだったな。
でも、そのうち彼に惹かれていったんだ。

彼奴は素直で、率直で、(想像以上にバカで、)初めて見るタイプの人間だった。

それから、美咲はこんな俺に臆することなく....屈託無く笑ってくれた。
そして、名前を呼んでくれた。

たったそれだけの事が何故か、とても嬉しかった。

(美咲....)

伏見猿比古の美咲への執着は分かった。
けれど、俺の気持ちだって負けない。

なんとしても、美咲を手に入れたい。
傍におきたい。

(美咲の全てになりたい....)

それは、物心付いてから初めてかも知れない、俺の"願望"というものだった。
初めて、俺は心の底から何かを求めた。

(美咲....)

絶対に手に入れる。

(その為には....)

伏見猿比古....俺は彼に勝たなければいけない。

今の時点では完敗だ。
過ごした時間も、関係性も....。

彼には俺の"強さ"が通用しない。
俺がいくら権力を振りかざそうと、彼は決して屈しないだろう。

(ああ、初めて見た)

伏見猿比古、彼は自分よりも、美咲を愛している。

(そうか、自分よりも誰かを愛している人間は....あんなに強いんだな)

俺の力が、言葉が、通用しない程度には。

しかし、これからだ。
今の時点で負けているなら、これから勝てばいい。

伏見猿比古は美咲に執着している。
それ故に強い。
けれど、それ故に致命的に弱い。

(先に不完全にでも美咲を手に入れれば、俺の勝ちだ)

そう、伏見猿比古に勝つには、ジョーカーが必要。
勿論そのジョーカーは美咲の存在自身だ。

(例えば、美咲を....)

犯すとか。

たったその程度の脅しで、簡単に奴は俺に屈するのでは無いか。

そうしたら、伏見猿比古は俺の思いのままだ。
美咲との絆をきっぱりと断ち切って貰おう。

それで美咲は俺のもの。

(そうだな、どうせなら先に....伏見猿比古が手出し出来ないように美咲を監禁しておいて....)

美咲を、俺の傍に―――

考えただけでも幸せだ。
これできっと全て上手くいく。

もしどんな邪魔が入ろうと、いつもの様に軽く脅して退けてやればいい。
それで退かないのなら、こっちもそれなりの対応をさせて貰おう。

俺は、強い。
最後には必ず美咲を手に入れてみせる。

そうだ、正義は俺の元にある。

(美咲....)

胸が熱い。

もうすぐ、美咲が手に入る―――


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なんなのこの勘違い男は(^^;)≡(;^^)
想像以上にうざくなった\(^o^)/

文才欲しいorz



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