☆Text-空白の石版-
□第六章 追憶
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【SIDE:美咲】
「はぁあ!?猿比古が貧血!?」
「八田さん、声が大きいですよ」
俺は驚いて大声を上げた。
俺の声に、クラスメイトが数人俺の方を振り返る。
(あ、やべ....ここ教室....)
思わず部室にいる様な気分で叫んじまった。
「わ、わりぃ....鎌本」
「いや、まぁしょうがないっす。やっぱ八田さんも吃驚しますよね」
俺が小さく謝ると、鎌本は軽く笑って手を振った。
「あのクソ可愛気のねぇ猿が貧血....」
「何か猿のクラスの奴らが噂してたんすよ」
俺は呆然として目を瞬かせる。
(....猿比古、大丈夫かな)
思わず心中で呟き、俺ははっと気付いて顔を赤らめた。
(な、なんで俺が猿なんかの心配しなきゃなんねーんだよっ....!!)
心配なんてしてねぇ。
してる訳ねぇ。
だって彼奴は吠舞羅の裏切り者だ。
「八田さん、心配ですか?」
「へっ!?////」
不意に、鎌本が静かに聞いてきた。
俺は鎌本の正鵠を射た言葉に思わず声を上げる。
鎌本、お前エスパーか何かか。
「八田さん、顔に出てましたよ」
「....っ////」
看破されて羞恥心が押し寄せる。
鎌本の癖に。
何なんだよその鋭さは。
.....っていや!!
心配なんてしてねぇってば!!
何で俺ちょっと今認めそうになってんだ!
「心配なんてしてねぇよっ!!」
「そうですか?」
「う....疑うのかよ!!」
俺の言葉に、鎌本は軽く眉を下げて聞き返す。
俺は吠えるように言うと、鎌本を睨んだ。
鎌本は小さく口元に笑みを浮かべると、俺と目線を合わせる。
「保健室で寝てるそうですけど....だったら、お見舞いとか行きませんよね」
「っ....!!」
お、お見舞い?
何だそれ....行くわけねーだろ....!!
俺は内心少し揺れながらも鎌本を再び睨み付ける。
(貧血っつったって....彼奴が不摂生ばっかしてっからだろ....)
同時に、心の中にぐるぐると安っぽいプライドが渦巻いた。
(ほら、彼奴が野菜とか全然食わねーから....)
「八田さん」
不意に、俺の思考を鎌本の少し笑いを帯びた声が切り裂く。
「っんだよ....」
「八田さんって素直じゃないですよねぇ....」
「っな!!////」
瞬間、顔から火が出るんじゃないかって位、頬が熱くなった。
素直じゃ、ないって....
「うっせぇ!!黙ってろ鎌本ぉっ!!////」
「あでっ!!」
軽く鎌本の頭を小突くと、鎌本は頭を抱えて小さく呻いた。
(....馬鹿ヤロー....そんなの解ってんだよ....!!)
俺は握り拳を解けないまま、震える唇をきゅっと淡く噛む。
(お見舞い....)
―――放課後。
そう、放課後になってしまった。
そして俺は今、保健室の前にいる。
ご丁寧に購買で買った野菜ジュース何て片手に持って。
(....何で俺は....////)
こんな事してるんだろう。
(いや、き、昨日盗まれたハンカチを取り戻すためだ!!絶対それだっ!!)
誰に弁明する訳でも無く、一人勝手に理由を付けてみる。
....俺、馬鹿みたいだ。
「....」
本当、何やってるんだろう。
やっぱり帰ろうか。
(....いや、何怖じ気付いてんだよ俺)
心の中で感情が二つにわかれる。
心臓が煩く鳴った。
馬鹿みたいに、ドキドキする。
「あぁクソッ!!何を俺は!!」
俺はぶんぶん頭を振って、がらりと保健室の扉を開いた。
うじうじしてんの何か、俺らしくねぇじゃんか。
「....あ、八田!」
保健室に入ると、直ぐに多々良先生が俺に気付いて手を振ってくれた。
「どしたのー?まさか八田も体調崩しちゃった?」
「や、そういう訳じゃねっすけど....」
「ん?とすると....」
多々良先生はそう言うと、そっと俺の手元を見つめる。
俺の手に握られている野菜ジュースを一瞥し、くすりと微笑んだ。
「猿くんに?」
多々良先生はにこりと笑うと俺に綺麗な眼差しを向ける。
俺は何となく居たたまれなくなって、そっと俯いた。
「....間違えて買っちまったので」
小さく呟くと、多々良先生にジュースを差し出す。
間違えた何て、嘘だけど。
多々良先生は笑みを深めて俺を見つめると、優しく俺の頭に手を置いた。
「それは、八田から渡してあげなよ」
「....」
くすぐったい。
多々良先生の綺麗な手が、優しく俺の頭を撫でる。
「....っす」
俺は小さく呟いた。
多々良先生は、狡い。
何でこんなに綺麗なんだろう。
「今ね、猿くん寝ちゃってるから....」
俺のそんな心情に気付いているのかいないのか、多々良先生は掴み所のない様子で笑った。
柔らかい声でそう言うと、くるりと俺に背を向ける。
「あ、じゃあ俺....帰りま...」
「―――はい」
帰ります。
そう言おうとしたら、多々良先生がまたこっちを向き直った。
にっこりと笑う彼の手には、黒のマジックペン。
「貸したげるよ」
「多々良先生....」
多々良先生は、天使の姿をした悪魔だ。
書けってか。
俺はそっと多々良先生からペンを受け取ると、指先で弄ぶ。
多々良先生は相変わらずにこにこしていた。
「猿くん寝てるのそこのカーテンの中ね」
優しく言うと、多々良先生はそっと席を立つ。
それから俺に向かってにっこりと微笑んだ。
「じゃあ八田、もう放課後だし俺は少し出かけてくるよ」
「へ....」
「猿くんを宜しくね」
え、ちょ....多々良先生?
「んじゃ、あでぃおすー!!」
「多々良先生ーっ!?」
まさに脱兎の如くと言おうか。
多々良先生は始終笑顔のまま保健室を後にした。
つーか、何だよ猿くんを宜しくって....。
何で俺が、よりにもよって何で俺に。
「猿比古....」
俺は小さく呟いた。
掌のマジックペンをぎゅっと握る。
それからそっとカーテンを捲って、猿比古の眠っているベットまでゆっくり歩を進めた。
俺はそっと眠る猿比古の横に立つ。
(....さる)
ベットに横になっている猿比古の寝顔は、昔と何ら変わりなく見えた。
(うぜぇ位....整ってるよな)
長い睫毛に、白い肌。
あ?
よく見たらそんなに血色悪そうでもねぇな。
「猿比古....」
眠っている時は、こんなに静か。
俺達、喧嘩せず傍にいられる。
俺は小さく溜息を吐いた。
何だか、こんなにゆっくり猿比古の顔を眺めたのは久しぶりだ。
(....なぁ)
どうして。
俺は心中で小さく呟く。
眠っている猿比古の傍に、俺は立ちつくした。
まるで、昔の猿比古の傍にいるようで。
俺の心の中で、何かが音を立てて崩れて行く。
(何で、吠舞羅を辞めたんだ....?)
猿比古は答えない。
当たり前だ。
寝てるし、俺、声に出してねぇし。
(俺のせいか....?)
俺は眠る猿比古の顔を見て、切なく瞳を細めた。
寝顔だけは、本当に昔のままの様。
「猿比古....」
あの頃、二人ぼっちの世界で。
猿比古は俺の一番傍に居てくれたのに。
俺、馬鹿だったろうし。
うぜぇ事も言っただろうし。
猿比古のこと、全然解ってやれた訳ねぇよな。
でも、傍に居てくれた。
高校生になって、一緒に部活何にするとか話して....そして、一緒に吠舞羅に入ったんだ。
(そういえば、あの頃からだよな)
俺は、モノクロの世界に極彩を見た気分だった。
でも、此奴は....
(いつも、つまんなそうにしてた)
瞬間、きゅっと心臓が痛くなる。
部室の隅っこで、何時もつまらなそうに俺が騒いでんのを見てた。
段々、俺と猿比古の間に....ちょっとずつ距離が出来て....
(それで、こんなに拗れちまったんだよな....)
何時も、顔付き合わせれば喧嘩ばかり。
猿比古は訳もなく俺を挑発して怒らせるし。
俺も猿比古見たら生理的に苛立つようになって来たし。
「....友達だったよな....確かに」
あの頃は。
確かに、友達だったよな。
瞬間、目頭が熱くなる。
何で失ってしまったんだろう。
俺が、馬鹿だから?
俺に嫌気がさしたのか?
「....猿比古」
俺は小さく呟いた。
気持ちがぐるぐると回って、心から溢れてくる。
止まらない。
どうしよう。
やべぇ。
「猿比古ぉ....」
「―――チッ」
不意に、俺が猿比古を呼ぶ声に舌打ちが重なる。
「へっ....」
俺が小さく声を漏らすと、その瞬間ぐいと腕を引かれた。
(は、えっ....!?)
俺は驚きで目を見開く。
目の前には、俺を睨み付ける猿比古の顔。
「は、さ....猿?」
「チッ...」
猿比古は再び舌打つと、俺を恨みがましく睨め付けた。
「さ、猿比古....何で、起きて....!?」
「テメェ入室時あれだけ煩く騒いでおいて....起きるに決まってんだろ」
「は....」
嘘だろ。
起きてたのかよ....!?
しかも、入室時って事は....
「全部き、聞いてたのか!?////」
「あぁ、美咲が何度も何度も俺の名前を呼んでたのも、ぜーんぶ」
嘘。
頭の中が真っ白にぶっ飛ぶ。
(クソ猿....起きてたなら、起きてますって言えよ....!!)
羞恥心と悔しさで、俺は言葉を失った。
「....美咲、そんな可愛い顔して俺の名前呼んでたんだな」
「っ....!!!////」
「....涙目」
猿比古はそう言うと、自嘲する様に小さく笑う。
それから、瞬間切なそうに顔を歪めて呟いた。
「....ともだち、か....」
「....猿」
俺はビクリと身体を震わせる。
切なそうな、猿比古の顔。
「....美咲」
「っんだよ....名前で呼ぶな....」
不意に猿比古は口を開くと、俺の腕を引いて俺の身体を引き寄せた。
猿比古と密着する。
(.....っ////)
俺の心臓は壊れそうな位強く波打った。
(だ、聞こえ....っ)
猿比古に、この痛い程の脈動が。
聞こえてしまう。
「美咲....あの頃俺のこと、友達ってさ....思ってた?」
「....!?」
不意に、猿比古の声が、俺の耳元を掠めた。
吐息が髪を揺らす。
「んな...違うの、かよ....!!馬鹿猿....!!」
「....」
俺は必死に言葉を繰った。
そうだ、確かに。
あの頃は友達だったろ。
「....は....」
不意に、猿比古の身体が震えた。
猿比古は小さく声を漏らす。
「....残酷」
「え....」
猿比古の切ない声が小さく耳元で木霊した。
そしてその瞬間、猿比古に強く抱きしめられる。
そっと顔を近付けられると、唇を重ね合わされた。
(!?////)
「ん....」
「っ....んんっ////」
訳が分からないままに力が抜ける。
思考がぐちゃぐちゃに融けて行く。
「ふ....」
「んっ....ふぁっ...////」
俺一人、何かみっともなく声漏らして、とろとろになってる。
(猿比古....何で....?)
猿比古の舌が、俺の口膣内を犯していく―――
猿比古の腕が、強く俺を抱きしめた。
俺も、反射的に猿比古の身体に腕を回す。
(さるひこ....)
何で?
何だよこれ。
こんなの、知らない。
「美咲....」
「っあ、さる....」
唇が離れる。
猿比古の、切ない表情、切ない声。
「美咲っ....!!」
猿比古の切ない声が、俺の脳に木霊する。
「美咲....!!」
俺の名前を呼ぶ、切ない声。
もう何も考えられなかった。
全て、この声に融かされてしまいそうだ。
「みさき....」
切ない声が、身体の内側に響く―――
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変な所でぶったぎってすみませんorz
更新頑張ります←