☆Text-40000Hit企画-

□Intoxication
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※草薙さん若返り
※草美



――それは一瞬の出来事だった。

「おい、十束ッ―――!!」
「えっ?」

瞬間、草薙は十束を突き飛ばす。
十束を庇う様に飛び出した草薙の胸に、フードを深く被った男の掌が強く押しつけられた。

その瞬間―――

「く、草薙さん!?」
「っ―――!?」

爆ぜる様に、男の掌から白い閃光が発せられる。
その光は刹那の内に草薙の身体を呑み込んだ。

「草薙さん!!」

十束の空を切る様な悲鳴が、辺りに響いた。


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【SIDE:草薙】


Bar吠舞羅の二階にて。

「ホンマや....尊が老けとる」
「あぁ?」

俺は思わず呟いた。
俺の言葉に、目の前の男が不愉快そうに眉根を寄せる。

その傍にいた幼い少女が、小さく俺を見上げて呟いた。

「違う、イズモが....若い」
「....」

少女はそう言うと、不安そうに一瞬尊の表情を伺う。
....誰やろ、この子。

尊の何なんや。
場合によっては尊、犯罪やで。

(....尊が謎の幼女侍らせとる....あ、いやいや、そんな事よりも....)

俺が、"若い"とは....。

様々な驚きから上手く言葉が繰れない俺に、十束が静かに言葉を掛けた。

「ね、信じてくれた?....草薙さん、高校生の頃まで若返っちゃったんだよ」

そう言うと、十束は少し気負いした様子で俯く。

(....ホンマ、か....?)

俺は自嘲気味に心中で呟いた。

このBarに帰るまでに聞いた、十束の説明を思い出す。

けれど....こんな話、俄には信じ難い。
自分が現在本当は26歳で、何かの事情で高校生の自分にまで若返ってしまっているなど。

「コレは何かの夢か幻かいな....」

俺は小さく呟いて、再び尊の顔をまじまじと見つめる。
....少なくとも、その顔は自分の良く知る高校生の周防尊よりもずっと大人びていた。

「十束、何があったのか説明しろ」
「ああ....キング、あのね....」

尊が促すと、十束は先程俺に説明した様な説明をもう一度繰り返す。

―――町中で突然、十束がストレインに襲われた事。
そしてそれを自分が庇った事。

「....そのストレインの能力は、対象の人物の時間を操作する力だったみたいなんだ。....本当は、生まれる前まで戻して殺そうとしたみたい」

十束の言葉が静かな部屋に響く。
尊の隣にいた小さな少女が、再び俺を静かに見上げた。

「けどね、草薙さんは反射的に赤の炎で身を守ったんだ。草薙さんの炎、凄かったからさ....何とかこの程度の若返りで済んだみたい」

って事は俺だったら危なかったな。

十束はそう付け足して苦笑した。

十束の苦笑に、尊が再び眉を顰める。
尊は低い声で十束に尋ねた。

「元には戻れるのか?」
「....ごめん、まだ解らない。でも草薙さんの炎で伸びちゃった犯人、青の人達に引き取って貰ったからさ....その内戻り方解析してくれると思う」

十束はそう言うと、小さく微笑む。
尊は対照的に眉間の皺を深めた。

「あの陰険が解析なんて....」
「大丈夫、青の王じゃなく、No.3の彼に....八田の写真付きで頼んどいたから」
「....そうか」

十束が返すと、尊がほんの一瞬だけ表情を弛める。

No.3の彼とは誰だか知らないが、余程信頼があるのだろうか?
....八田の写真付きで、とはどういう意味だろう。

(ん....ヤタ....)

不意に、その名前が妙に心に引っ掛かった。
一瞬だが、心がポカリと温かくなる。

(....?)

俺が静かに考えていると、十束がそっと俺の顔を覗き込んだ。
俺の知っている、あどけない少年の表情ではなく....綺麗な青年の顔で。

「不安?」
「え....」

静かに十束はそう言うと、そっと目を細めた。
俺は目を瞬かせて、十束を見返す。

「大丈夫、大丈夫、何とかなる....草薙さんが元に戻るまで、俺達が色々フォローするからさ」
「....」

十束はそう言うと、へらりと笑って見せた。

....顔は大人びても、こういう所は変わっていない。

(....何とかなる、か....無責任な事言いよって)

俺は心中で呟いた。
それから、小さく微笑む。

まるで突然放り込まれた未来の世界に、自分の良く知る世界の片鱗を見つけた気がした。

「....せやな、悪いけど....暫く世話掛けるで」
「任せといて!」

俺が静かに言うと、十束はにっこり笑ってそう答える。
尊がその様子を見て、小さく口端を持ち上げた。

その時―――

カラン、とBarの扉を開く音。
そして、快活な少年の声がBar吠舞羅に響き渡った。

「ちーっす、八田っす....あれ?誰もいねーの?」

幼さの残る、少年の声。

(....八田!!)

瞬間ドクリと心臓が激しく脈打った。

「あれ....可笑しいっすね、八田さん。もしかして二階じゃないっすか?」

少年の声に返すように、別の声がまた響く。

その二つの声に、十束が表情を緩ませた。

「あぁ、八田と鎌本だね」

そう言うと、十束は静かに俺の手を引いて立ち上がる。

「吠舞羅のメンバーの二人だよ。今紹介するね」
「....おう」

十束が柔和な笑みを浮かべながら言うと、俺は小さく頷いた。

心臓が、まだ、妙に煩い。

(何なんや一体....?)

少年の声が、気になって仕方が無かった。

(八田....)

この名前が、何故か心から離れない。




妙に早る心を宥めつつ、一階へ下りていく。

一階に下りると、十束が目の前の二人を順に指さしながら説明した。

「草薙さん、ちっちゃい方が八田で、でっかい方が鎌本だよ」
「あ"ぁ!?誰がちっちゃい方だッ!!?....って十束さん何をわざわざ....」

不意に、"八田"が俺の顔に目を留める。
瞬間、その顔を見つめ返した俺と目が合った。

(....ッ?)

ドクン―――

再び、心臓が高鳴る。

ポカンとした表情で、俺を見つめる"八田"。
....八田?

「....八田ちゃん....?」

俺は思わず呟いた。
そう呟くと、八田の幼げな表情が一瞬ぴくりと動く。

それから八田は瞬間ちらりと隣の巨漢に目をやった。
巨漢に困惑の眼差しを向けた後、再び俺の方へ向き直って小首を傾げた。

「草薙さん、一体どうしたんすかその姿....何か、若返ってね?」
「....あ、いや」

俺は突然八田に声を掛けられて戸惑う。
ばっと十束の方へ助けを求めて視線を送れば、十束が淡い笑みを浮かべながら代わりに説明した。

「草薙さんね、ストレインの襲撃のせいで一時的に若返っちゃったんだ」
「え、草薙さん、ストレインに襲われたんすか!!?」

十束の言葉に、八田は眉根を寄せる。
手に持っていたバットをぎゅっと握りしめるのが見えた。

「それなら俺が犯人今からとっちめて....」
「いやいや、八田....犯人はもうセプター4に拘束して貰ってるから大丈夫だよ」

八田が左手で握り拳を作って前のめりに言うと、それを十束が優しく宥める。

まるで子供と保護者だ。
....だけど、その光景がじわりと心に染みる。

(あれ、なんやろ....俺、"好き"や)

目の前の、八田のいる景色が、愛おしい。

俺は八田の様子を眺めて、小さく心中で呟いた。

(八田ちゃん....なんつーか)

チワワみたいやんなぁ....

そう考えると、俺は隠れて小さく吹き出した。

(可笑しいなぁ....八田ちゃんの事ばっか考えてまう....)

理由はよく分からない。
何故か、八田の声に、八田の姿に、どうしても反応してしまう。

(可愛え....)

俺は小さく胸の中で呟いた。

それからはっと我に帰って、いやいやと小さく首を振る。

....可愛いって何思ってんねん。
相手は男やぞ。

しかも子供。

「十束」
「ん、何草薙さん....?」

俺は小さく十束に声を掛けた。
今は何でもいい。
気を紛らわせる会話が欲しかった。

「吠舞羅っちゅうんは、随分可愛らしい奴までメンバー何やな」

俺は平静を装いつつ、十束に言う。
一拍開けて、俺は言葉を続けた。

「こないな....中坊もおるんやから」

俺が小さく呟くと、その刹那Bar内に静寂が訪れる。

再びポカンとした表情で俺を見る八田。
一瞬驚いて、それから得心した様に笑いを堪える十束。
徐々に苦笑いを浮かべる巨漢の男。

(あれ、俺なんか可笑しな事言うたか....?)

暫くして、漸く状況を呑み込んだ八田の肩が小刻みに震え始める。
八田の顔がみるみる真っ赤に染まっていった。

(アレ....これは、何か怒っとる....?)

ギロリと俺を睨み付ける八田。
漸く見かねた十束が俺の肩に手を置くと、静かに言葉を繰った。

「....草薙さん、八田は19歳だよ」
「へ、19!?」

十束の言葉に俺は思わず驚いてそれを復唱する。
八田の方へ目線を向けると、怒り心頭と言った様子で俺を睨み付けていた。

「は?この可愛えんが、19!?」
「ッ誰が可愛いだゴラァアアア!!」

俺が思わず再び念を押すと、とうとう八田が吠える。

その姿に十束が、はは、と笑い声を上げた。
巨漢の男はさっと八田の傍を避難する。

俺は一人やってしまったという後悔の念から苦笑した。

(....いや、だって可愛えのは本当やんか....)

俺は小さく胸中で呟くと、ちらりと八田を盗み見る。
つり上がった猫目に、華奢な身体、幼げな顔―――

(....怒ってても、可愛ぇ)

俺は再び心中で呟き、思わず口元を弛めた。

どうにも、俺はこの少年を前にすると、どうしても何処か可笑しくなってしまうらしい。
目の前の彼が愛おしくて堪らない。

(―――26歳の俺も、そうだったんやろうか)

俺は刹那、26歳の自分の事を思った。
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