☆Text-40000Hit企画-

□甘い弾丸
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※美咲視点
※尊美拠り


「あ、あのっ....草薙さん」
「ん?何や八田ちゃん」

カランと、草薙さんの手の中のグラスが音を立てる。
氷の入ったそれにジュースを注ぎながら、草薙さんは俺に視線を向けた。

「草薙さんなら、プレゼント貰えるなら何がいいですか?」
「プレゼント?せやなぁ....」

俺が尋ねると、草薙さんはグラスを片手に瞬間目を瞬かせる。
それから直ぐに俺の方へ視線をやって尋ね返した。

「つーか、どしたん八田ちゃん急に?」
「え、あ....」

俺は突然質問を返されて刹那口ごもる。

別に説明するのは構わないけどよ....。
....な、何となく恥ずかしいじゃねーか。

「っの....俺達、尊さんに何時もお世話になってるじゃないですか....だから」

俺は不思議そうに俺を見つめる草薙さんに目をやりながら、おずおずと言葉を繰る。
コトンと、目の前にグラスが置かれると、俺は小さく頭を下げて言葉を続けた。

「み、尊さんにプレゼントとかしてーなって....それで、何を送ろうか考えてたんす」
「....八田ちゃん」

言い切ると、俺はグラスに口を付け、中のジュースを一口口に含む。

草薙さんは俺の名を呼びながら、微妙な表情を浮かべた。
草薙さんの瞳が困った様に細められる。

「成る程、尊にプレゼントなぁ....」
「だ、ダメっすかね」

草薙さんの渋る様子に、俺は刹那慌てて確認した。
尊さんに贈り物なんて、やっぱ尊大過ぎる....か?

俺が眉を下げて俯くと、草薙さんがひらひら顔の前で手を振って見せる。

「いやいや、アカンって事はないやろ。けど....尊が貰って喜ぶもんて思いつかんなぁと思って」
「そっすよね、俺もソレが思いつかなくて....」

草薙さんの言葉に、俺はカランとグラスを回した。
中の氷が不安定にゆらりと揺れる。

「何か尊さんが喜んでくれそうなプレゼントってねぇかなぁ....」
「うーん、せやなぁ....飯食って寝て時々暴れられれば満足しそうな奴やしなぁ」

草薙さんはそう言うと、静かに首を傾げた。
俺もそれに合わせてくいと首を傾げる。

暫くそうして二人で向かい合って首を傾げた後、草薙さんが漸く口を開いた。

「まぁ、八田ちゃんからの贈り物なら、何でも喜ぶと思うけど....どうしても決まらんかったら、他の奴にも聞いてみたらどうや」

草薙さんはそう言うと淡く微笑む。

俺は草薙さんの言葉に小さく唸った。
....やっぱり草薙さんにも尊さんの好みははっきり解んねーか。

「ん、んむ....そう、っすね」

俺はグラスに再び口を付けながらそう答える。
ばっと立ち上がると、空になったグラスを草薙さんに差し出した。

「あざっした草薙さん!俺、他の奴らにも聞いてきます!!」
「おー、行ってき」

俺は草薙さんに向かって、にっと笑って小さく頭を下げると、脇に置いておいたスケボーを手に店を出る。

(尊さん、待ってて下さいね!!)

地面にスケボーを落とし、その上に足を掛けると俺は拳を握った。

(俺、ぜってぇ尊さんの喜ぶものプレゼントして見せますっ!!)

「っしゃあ!!」

心の中でそう宣誓すると、俺はガンと地面を強く蹴る。
スケボーが音を立てて滑り出すと、俺は再び口元ににっと笑みを浮かべた。


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「で、鎌本....お前だったら何が欲しい」
「えぇ、俺っすか?そうですねぇ....」

早速鎌本に聞き込みをしてみる。
おら鎌本、早く答えろ。

「俺ならやっぱ食い物っすね。八田さん奢ってくれるんすか?」
「っ馬鹿奢らねーよ!!」
「えー、じゃあ何で聞いたんですか....」

鎌本の言葉を一蹴すると、鎌本の巨体がしゅんと項垂れる。
その様子を一瞥すると、俺は小さく溜息を吐いて、鎌本に背を向けた。

「取り敢えず解った、サンキュー鎌本」
「え、あ?はい....」

(食い物か....でも尊さん、いつも草薙さんに旨いもん食わせて貰ってるしな)

鎌本に背を向け、むぅと唸りながらスケボーに足を掛ける。

「え、八田さん?」
「っし、次の奴に聞いてくる!!」
「えっちょ、八田さぁん!?説明してくれないと妙に気になるじゃないですか!!」

俺は手を伸ばす鎌本を振り切って、地面を強く蹴った。
ガッと音を立ててスケボーが走り始める。

よし、次は板東辺りだな―――




夕方。

(っと、コレで粗方の奴らには声掛けてみたか....?)

俺は公園のベンチに座り込んで端末を見つめる。
時間を確認すると、聞き込みを初めてから早くも数時間。

(っ結構たってんな....)

俺は目を細めて心の中で呟いた。

大人数に聞いたものの、正直イマイチ参考にならない意見ばかり。
今一つ尊さんにプレゼントする気になるものはなかった。

(板東の"金が欲しい"発言とか....)

....時間を無駄にした。

そう心中で呟き、ベンチから立ち上がった瞬間、聞き慣れた耳に付く声が聞こえる。

「みぃさぁきぃ....こーんな所で何してんだよ?」
「!!」

俺は声のする方へ、ばっと顔を向けた。
ねっとりとした物言いに、うざってぇ呼び方....

間違いねぇ。

「猿比古!!」
「あー、奇遇だなぁ美咲ぃ.....!!」

視線の先には青い服を纏った猿比古。
猿比古は左手でひらりと宙を掻いて俺の方へ歩を進めた。

「っテメェ!!何で青服が公園なんか....」

俺は猿比古の姿を確認すると、ぎっと彼を睨んだ。

何で青服がこんな時間に公園に居るんだよ。
暇なのかよ青服。

「ふふ、美咲ぃ....別に俺は公園に来た訳じゃねぇよ」
「あぁ!?何言ってやがる、現にテメェ公園に....っ!!」

猿比古は俺の目の前まで近付くと、にやりと笑った。
俺はその嫌らしい微笑みにぎゅっと拳を握る。

クソ、ここで一勝負おっ始めようってのか....!?

俺が猿比古を鋭く睨み付けると、猿比古は嬉しそうに言葉を続けた。

「はは、別に俺は公園なんかに来た訳じゃねぇ....美咲の匂いがする方へ来ただけだ」
「はぁ!?訳わかんねぇ事言ってんじゃ....っあ!?」

ガン―――

刹那背中に衝撃が走る。

俺はベンチに押し倒されていた。
猿比古の綺麗な顔が眼前に迫る。

「っ!?ぁ、さ、猿比古っ?////」
「はは美咲ぃ....折角こんな所で奇遇にも会えたんだ....まさかただで帰れるとは思ってねぇよなぁ....?」
「へ!?////」

猿比古の身体に下敷きにされる様に、俺はベンチに据え付けられた。

(ち、近....!?////)

逃げようにも、猿比古が俺の身体の上に乗っかっている上に、何時の間にか両手を塞がれていて逃げれない。

(い、何時の間に両手....!?)

俺はさっと横を向いて何とか猿比古の顔から自身の顔を遠ざける。
こんなにすぐ近くに猿比古の顔が有るのはどうにも落ち着かなかった。

「つーかテメェ、は、放せよっクソ猿!!////」
「チッ、おい美咲何処向いてんだ....こっち向けよ」
「テメェクソ猿!!会話のキャッチボールしろよ!!////」

猿比古は俺の訴えには全く聞く耳持たず、不機嫌そうに俺を睨み付ける。
まさに会話のドッジボール状態だ。

「チッ、おい美咲こっち顔向けろ....」
「うるせぇ誰が....ひゃっ!!////」

瞬間、猿比古に耳を甘噛みされる。
俺は目を見開いてビクリと震えた。

(うお、へ、変な声出た....!?////)

猿比古の吐息が耳を擽る。
俺は段々大きく迫る心臓の音に顔を赤く染めた。

「美咲、俺だけ見てろよ」
「ッそこで喋るなっ!!////」

猿比古が言葉を発する度に、猿比古の吐息が耳を犯す。
.....もうダメだっ!!////

「っクソ猿!!////」
「美咲」

俺は耳への刺激に耐えかねて、猿比古の方へ向き直ると猿比古を上目遣いに睨み付けた。
俺の陥落に、猿比古が満足げに俺の名を呼ぶ。

「美咲、はは....感じちゃった?」
「んなッ、んな訳ねーだろ!!クソ猿!!////」

俺は精一杯猿比古の拘束から逃れようと身を捩った。
猿比古の煽り言葉に身体中が熱く火照っていく。

「美咲ぃ....本当は俺が欲しいんだろ?素直になれよ....」
「はぁあ!?テメッ何言って、テメェ何て欲しくね....!!」

そこまで叫んで俺はハッと気付いて口を噤んだ。
欲しいもの....といえば、そういや俺尊さんのプレゼント選びの途中だったじゃねぇか。

クソ猿のせいですっかり忘れてた。

(そ、そうだ....気は進まねーけど、尊さんのプレゼントの為だ....!!)

猿比古にも一応聞いてみっか....。

「お、おい猿比古!」
「あ?何だよ美咲.....」

俺は迫る猿比古を見つめながら、そっと口を開く。
先程までの苛立ちや熱は尊さんの事を考えたら大分落ち着いた。

....やっぱ尊さんはすっげぇ偉大だな!

「あーその....猿比古は今....な、何か欲しいものとかねぇのか?」
「ん、俺....?」

俺が尋ねると、瞬間猿比古がピタリと固まる。
上目遣いに猿比古を見上げながら、俺は答えを待った。

暫くして、猿比古の唇が小さく開かれる。

「....美咲」
「へ?」
「美咲が欲しい」

小さく言うと、猿比古はぺしゃりと俺の身体の上に崩れ落ちた。
きゅうと首に腕を回され、抱きしめられる。

「へ、あ....猿比古?お前何言ってんだ?////」
「....」

猿比古の予想外の言葉に、俺は慌てて聞き返した。
猿比古はそれには答えず、ひたすら沈黙する。

「お、おい....猿っ」
「....お前こそ美咲....突然、何なんだよ?」

俺が小さく呼ぶと、漸く猿比古から鈍い声が聞こえた。

「急に、こんな事聞いてきて....」
「え、あ....これはプレゼントの参考に」

猿比古の言葉に、俺は咄嗟に答える。
身体に猿比古の重みがずしりとのし掛かった。
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