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□失敗作の世界
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※伏見視点
※センチメンタル伏見


俺はふと気が付いた。

(あー、そっか。この世界は失敗作なんだ)

美咲が俺を愛してくれない。
美咲が俺を見てくれない世界。

(何処かに....全く違う世界が有るのかな)

俺は小さく息を吐いた。

パラレルワールドとか、正直そういうの興味なかったけど。

「チッ....」

別の世界では、俺と美咲は今も、ずっと傍にいるのかな。

美咲がずっと俺の隣にいて、俺だけを愛してくれる。
そんな世界があるのかな。

「美咲....」

俺は呟いた。

時々、元吠舞羅の印があった所が、じくりと疼く。

殊更痛い訳ではないが、何処か惨めだった。
俺から美咲を奪った吠舞羅。

その証を消し去ろうと足掻いて、残った傷跡。

(消えない)

どんな炎で焼き焦がしても消えない。
俺の身体には確かに吠舞羅だった痕跡が残っている。

この傷は、過去は、消せない。

(ずっとだ)

そして、世界は俺から美咲を奪った。
あの日、俺の愛した二人ぼっちの世界は壊れてしまった。

「チッ」

この世界は、失敗作だ。

「美咲ぃ....」

心臓が痛む。
楔を打ち込まれるように、悔恨と憎悪が俺の心を貫いた。

「何で離れて行ったんだよ....」

いらない、こんな世界。

(美咲....!!)

美咲が傍に居てくれる世界がいい。
こんな世界、要らないんだよ。

「は....そうだ、俺も」

要らない。

(失敗作)

俺も、要らない失敗作。
失敗作の世界の伏見猿比古。

「美咲....!!」

苦しい。

俺は小さく咳き込んで、ふらりと夜道を歩く。
無性に美咲に逢いたかった。

美咲に逢って、抱きしめて貰って。
また、あの頃みたいに一緒に音楽聞いたりしたい―――

「美咲」

俺は呟いて、俯いた。

裏切り者と、きっと睨まれるだろう。
それでもいい。

美咲に逢いたい。


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「何でここにいんだ裏切り者」
「....」

俺は美咲の家の玄関の前で、美咲が帰ってくるのを待っていた。
夜風が少し寒かったけど、美咲に逢うためだと思えば平気だよ。

合い鍵持ってるけど、このドアは美咲に開けて欲しかったからさ。

「美咲....」
「猿、お前ホント何の用....!」

俺が小さく美咲の名を呟くと、美咲は俺を睨んだ。
それから瞬間目を瞬かせる。

言い掛けた言葉をそっと飲み下して、美咲は俺の頬に手を当てた。

「美咲?」
「お前、どうした?」

美咲は俺の目を見て尋ねる。
最愛の美咲の掌に、俺はきゅんと心が温まるのを感じた。

美咲はそんな俺を見ながら怪訝そうに呟く。

「お前、すっげー変な顔してる....絶対何かまた悩んでんだろ」
「....」

気付いてくれたのかよ。
俺の事、見てくれたって事?

俺は美咲に言われて瞬間唇を噛んだ。

美咲がここにいる。
それだけで嬉しいのに。

そんな風に、美咲に真っ直ぐ見つめられたら。

「チッ....童顔の美咲に言われたくねぇよ」
「んだとこら」

俺が舌打ちしながら言うと、美咲が眉尻をつり上げる。
怒った顔も可愛い。

美咲は俺を睨み付けながら、再び唇を動かした。

「で、何があったんだよクソ猿」
「....別に」
「別にな訳ねーだろ!!勿体ぶらずにとっとと吐けよ!!」

俺がぼそりと呟くと、美咲は俺の胸元を掴んでぐいと自分の方へ引き寄せる。
怒っているけど、やっぱり美咲は優しい。

瞳の奥が、ちょっと心配そうに俺を伺っている。

「....は、美咲ん家....泊めてくれんなら話す....」
「ふざけんな、宿代取るぞ」

俺が美咲を見下ろしながら言葉を零すと、美咲は呆れたように返した。
少しだけ頬が赤い。

可愛い。

(失敗作の世界でも、美咲は可愛い)

失敗作なのは、世界と俺だけ。

「いくら?」
「へ」

俺は淡く口端を持ち上げると、美咲に尋ねた。

「だから、宿代いくらって」
「はァ!?いらねーよそんなん!!」

さっきと言ってる事違う。
お金払えば美咲の家に上げて貰えて美咲を好きにしていいって言ったのに。

美咲の可愛い細い身体を俺の滾った獣欲で好きに犯して良いって....まぁ口にはしてなかったけど....心の中で言っただろ?
男に二言なんてねぇだろおい美咲....!!

「じゃあただで泊めろ」
「何でだよ!帰れっつの!!」

俺が口を尖らせると、美咲は夜の住宅街に響くような声で叫ぶ。

「泊めてくれないなら俺一晩中この玄関の前に座ってる」
「知るかよ!!勝手にしろ!!」

バンッ!!

俺の訴えも虚しく、美咲は怒って家の中に入ってしまった。
美咲の意地悪....。

(きっと成功例の世界では....)

俺は独りになって静かに、俯いた。

(美咲は俺が来たら....セックスすんの期待してちょっと頬を染めながら、可愛く俺の手を引いて家の中に入れてくれるんだ.....)

「チッ」

考えても仕方がない妄想だけれど。

つーか寧ろただの願望だけど。

(そんな世界、ある訳ねーよな)

あるのは失敗作の世界だけ。
失敗作の俺がいれるのは、この窮屈な壊れた世界だけだ。

(あー....寒い)

凍えそう。

「....美咲ぃ」
「ああもううるせーなぁっ!!////」

俺が呟くと、再びドアがバンッと勢い良く開く。
中から真っ赤な顔の美咲が出てきた。

「お前さっきからぶつぶつ煩ぇんだよ!!近所迷惑だから入れっての!!」
「え....」

俺、何も言ってないけど。
至極静かにしてたけど。

ちょっと美咲の名前を呟いただけ....

そう思って美咲を見ると、美咲は耳まで真っ赤で、ドアノブを掴んだ手は少し震えていた。

「は....」
「っ、何だよ入らねーなら帰れよ!!////」

そう言う美咲はふいと俺から顔を背ける。

これって、ツンデレって奴だよな....?

「くは、美咲って....本当....」
「うるせーなクソ猿追い出されてーのか!!////」
「まだ入れて貰ってもねぇし」

俺が笑うと、美咲はきゃんきゃん騒ぐ。

お前の声の方がよっぽど近所迷惑だよ。
まぁ俺にとっては迷惑所かご褒美だけど。

「んだよ入らねぇのかっ!?」
「ん、挿入る」

俺は小さく呟くと美咲の横を通って美咲の家の中に入れて貰った。

美咲の家の中に入るのって、なんか美咲の中に挿入らせて貰ってる様でちょっと興奮するな。

「おいクソ猿何にやにやしてんだよ」
「この部屋美咲の匂いがする」
「キモい事言ってんじゃねぇ!!」

美咲から鉄拳が飛んで来た。

俺の業界ではご褒美。
俺は全力で美咲からのご褒美を受け取ると、お礼代わりに美咲を抱きしめた。

「っはぁ!?////」
「美咲いー匂い」
「は、離せクソ猿ッ!!どこ触ってんだよ!!////」

抱きしめながら美咲の首筋に顔を埋める。
あー美咲美咲美咲美咲美咲.....。

「っ、クソ....何なんだよ」
「....」

hshsしてたら美咲も諦めたみたいで大人しくなる。
可愛い。

俺は美咲の身体を抱きながら、ぽつりと呟いた。

「美咲は俺のこと、どう思う?」
「はぁ?」

驚いたのか、美咲は少し上擦った声を上げる。
それから俺の身体におずおずと腕を回した。

美咲の掌が弱々しく俺の背中に触れる。

「嫌いだけど....」
「....」

予想通りの言葉。
現実って厳しい。

奇跡も魔法もないんだよ。

でも美咲とこんなにくっつける何て奇跡みたいなもんかな.....。

「美咲」
「あ?」

「俺の事、失敗作って思う?」
「....はぁ?」

俺は小さく呟いた。
それに対し、美咲はまた上擦った声を漏らす。

「....失敗作ぅ?何で?」
「だって....」

美咲はそう尋ねると、俺を見上げた。
それから、瞬間目を細める。

俺は言葉に詰まって美咲を見た。

だって、何なんだろう。
だっての先が出てこなかった。

俺は、自分の何処に辟易してるって言うんだろう。
何が嫌なんだろう。

(....いや、全部だろ)

だって美咲を繋ぎ止めておけない。
美咲に見て貰えない。

そんな俺、いらないだろ。

「....あークソ猿....」
「....」

俺が何も言えないでいると、不意に美咲が溜息を吐いた。
それからガンと俺の頭を小突く。

「....痛ぇ」
「ったくお前は面倒くせぇな!!クソ猿!!」
「....うるせぇな」

俺はそうぼやいて唇を歪める美咲を見下ろした。
そして息を飲む。
美咲の顔が、何だか泣きそうに見えた。

美咲、何でそんな顔してんの。
どうして美咲が泣きそうな顔を....?

俺がはっとして美咲を見つめると、美咲は俺を睨み付けて叫ぶ。

「そりゃあ....お前は変態だしウゼェしムカツクし....性格は悪ぃわ面倒くせぇわ俺の事未だに名前で呼んでくるわ....裏切り者だわで最悪だけどよ....」
「美咲酷い」

おい、美咲そんな風に俺のこと思ってたのかよ。
お前に言われると、解ってても傷付くんだけど。

「けど....俺が中学の頃....ずっと一緒に居たのはお前じゃねぇか」
「....美咲」

美咲の言葉に俺はびくりと肩を震わせた。
俺の中の、一番柔らかい部分が熱くなる。

瞬間、美咲の瞳が潤んだ。
そしてその瞳に、透明な雫が溜まる。

「失敗作だか何だか....知らねぇけどよ」
「美咲....」

美咲は目を細めて言葉を繰った。

俺は目の前の光景に、瞬間どきりとする。
美咲の猫目が、寂しげに細められていた。

「俺の伏見猿比古は....お前だけだろ」

言うと、美咲は俺を突き飛ばす。

俺はふらりと蹌踉けた。

(美咲)

俺は美咲の言葉を胸の内で反芻した。

(お前の、伏見猿比古)

それは、俺だけ....

途端、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

俺だけ。
確かに、美咲はそう言った。

(俺は、美咲の....)

たった一人の伏見猿比古。

「美咲」
「んだよクソ猿殺すぞ!!」
「何で」

俺はそっと美咲の名を呼んだ。
美咲は涙声で俺の声に答える。

「....美咲」
「名前で呼ぶんじゃねぇよ!!」
「八田」

俺がそう呼ぶと、美咲はピクリと肩を震わせた。
そしてそっと俺を見上げる。

潤んだ瞳、上気した頬。
襲われたいのか。

「美咲....俺、これでも、いいのか」
「....いいもクソも....お前しかいねぇんだよ」

言うと、美咲はぎゅっと唇を歪める。
俺は目頭に熱い感情が込み上げてきて、瞬間俯いた。

(美咲は、いつもそうだ)

突然俺の心の中にズケズケ入ってくる。
そして。

(俺自身を、俺の心の中に入れてくれるんだ)

ここに居てもいいんだと。
俺は、俺のままでいいんだと。

「美咲ぃ....」
「猿....」

(俺自身が、大嫌いな世界を....俺の、事を)

お前だけが肯定してくれる。

「美咲、今度は、美咲から....して」
「は?何をだよ」

俺は言うと、黙って腕を広げた。
すると美咲は瞬間目をぱちくりさせて、それから赤くなる。

「っ馬鹿猿....ハゲ」
「ハゲてねーよ」

美咲はいつもの様に悪態を吐きながらも、きゅっと俺の身体にくっついた。
そして恐る恐るといった様子で俺を抱きしめる。

俺もそれに応えて美咲を抱きしめた。

そっと腕を回して美咲の髪を撫でる。
優しく美咲の頭を俺の胸に押し付けると、少しだけ美咲は藻掻いた。

(温かい)

寄り添った身体の温かさに、瞳の奥の氷がゆっくりと融かされていく。

(美咲....)

つっと、俺の頬に一滴、雫が伝った。



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信じられるか?
此奴ら、これで付き合ってないんだぜ\(^o^)/

ウェットな気分な伏見の話です。
普段は美咲のアソコがウェットな話ばかり書いているのでたまにはと思ってこうなりました←

失敗作でも何でも、そこにいるのは伏見。
一緒に生きてきた伏見だから、美咲にとってはどんな彼でも本物なんですよね。

某生まれた意味を知るRPGを思い出しながら書いてました。

何はともあれここまで読んで下さりありがとうございました(^o^)




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