★Text

□熱の宛先
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※美咲視点


「ハァ....」

俺は小さく溜息を吐いた。
腕には鮮血が鮮やかに滴っている。

「クソッ、だせぇ....!!」

俺は息も絶え絶えに呟く。

まさか、こんな雑魚共に遅れを取るなんて。

目の前には喧嘩を仕掛けて来た奴らの身体が山積みにされている。
十、二十....ざっとこんなもんか。

(は、多勢に無勢っつっても....こんな炎も扱えない一般人に....)

相手は一般人だった。
だからと言って、油断したのがいけなかったのか。

「ちくしょう....」

バイト先からの帰宅途中、俺は弁当片手に帰路を急いでいた。
その途中の事だった。

目の前に、ぞろぞろとガラの悪そうな男達が現れて、俺を取り囲んだ。
どうせ大したことねぇ連中だと思い、適当にあしらってやるつもりだったが、それが甘かった。

一瞬。
一瞬の隙をつかれて奴らの一人に腕を捕まれた。

危険を感じて咄嗟に振り払ったが、その時どいつかのナイフが腕を掠めた。

(クラクラする....)

そのナイフに、恐らく何か仕込んであったのだろう。
一瞬で身体が痺れて、急に頭が痛くなる。

そこから俺の動きは格段に鈍くなって、こんな奴ら相手に相当手こずった。

今も、頭がクラクラする。

(ヤバイ....マジで....倒れっかも)

誰か呼ばないと。
このままじゃ、まずい。

彼奴らの方が、俺より先に目醒めたら....俺どうなるんだろう。

(や、べえ....)

朦朧とする意識の下で俺はやっと端末を取り出すと、何とか連絡を入れる。

「チッ....はい、もしもしぃ....」
「今直ぐ、来い....」
「!?あ、美咲....ッ?」

視界が歪んだ。
端末に出た声に、ただそれだけ告げると俺は崩れ落ちる。

情けねぇが、もう指一本動かせなかった。

(クソ、意識が)

俺はその場で意識を失った―――


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あったかい。
ここは....?

「ん....」

目を覚ますと、そこには無機質な部屋の景色。

「俺...一体....あ!!」

そうだ、俺、倒れたんだ。
はっと気付いてベットから身体を起こすと、俺の身体に綺麗に包帯が巻かれている事に気が付いた。

いや、包帯所か小綺麗な寝間着まで着せられている。

(これ....誰が?)

「漸くお目覚めか?」
「!!」

俺が目を瞬いていると、何処かからよく聞き慣れた声。
振り返ると、そこには不機嫌そうな顔をした猿比古がいた。

「....猿」
「何俺の知らねぇ所でそんな怪我負ってんだよ」

猿比古は静かに言いながら俺の隣に寄り添った。
俺は言葉に詰まってただ猿比古の顔を見返す。

何で、猿比古が?

「チッ、んだその顔は....美咲が呼んだんだろ」
「えっ!?俺が!?」

俺が黙っていると、猿比古が苛立ちながら呟く。
俺は肩を震わせた。

(そういや、確かに誰か呼んだ....けど)

まさか俺、よりにもよって猿比古を呼んじまったのかよ。

「....」
「みぃさぁきぃ....御礼のちゅー位して貰ってもいいと思うけど?」
「....ふざけんな////」

猿比古を呼んじまったなんて、自分で自分が憎い。
此奴はもう吠舞羅じゃねぇのに。

確かに相手を確認している余裕なんて無かったが、それにしても。

「....っ」
「美咲、ちゅー」
「だから、しねえってばッきゃああっ!!」

気付いたら目の前に猿比古の顔。
ぎゅっと腕を捕まれて、俺は猿比古にキスされてた。

重なる唇に、進入してくる舌。

「んっ、んうっ...////」

俺は猿比古とのキスに身をよがらせた。
心臓が煩く鳴り響く。

口の中を縦横無尽に犯す猿比古の舌に、ぞくりと背筋に快感が走った。

(ん、猿比古ぉ.....)

ねっとりと絡みつく猿比古の舌に、粘液の触れ合う口内が熱い。

(気持ちいい....って)

「んな訳あるかぁああ!!」
「ってぇ」

好き勝手調子に乗る猿比古を突き飛ばすと、俺は荒い息を吐きながら拳を握った。

「クソ猿っ..../////」
「何美咲、結構気持ちよさそうにしてた癖に」
「してねぇ!!」
「チッ、キス位中学の頃もやってただろ」
「っ....////」

(確かに、や、やってたけど)

確かに俺と猿比古は中学時代よくキスをした。
というか、猿比古に填められてやってた。

『バレたらヤベー事、二人でしちゃおうぜ?』

何て猿比古がにやっとして言うから俺も、何だそれ鬼格好ぇ!!とか錯覚しちまって.....。

気付いたら誰も見ていない時には二人でキスするようになった。
職員室の前で先生が出てこないの確認しながらディープキスした時は滅茶苦茶ドキドキしたな....あと部室とか。

今思うと俺凄いアホだけど。
何であんな言葉に乗せられたんだろう。

「おいみぃさぁきぃ、何黙ってんだよ....何か言えよ」
「っ、は....猿!!////」

そうだ、昔の事思い出してる場合じゃねぇ。
何はともあれ昔やってたからって、今キスする理由にはならねえっつの!

「....クソ猿、調子乗ってんじゃねぇ。―――中学の頃とは違ぇんだよ!」
「....」

そうだ、あの頃とは違う。
だって....俺は吠舞羅で。
そして此奴は吠舞羅の裏切り者なんだ。

何も背負ってなかったあの頃とは、違うに決まってる。

「....まぁ、助けて、くれたのには....礼言うけど」

俺はそれだけ言うと、ベットから立ち上がった。
身体の痛みはすっかりよくなっていた。

これも、猿比古が手当してくれたのだろうか。

(....こんな、綺麗に手当までしてくれてよ)

俺の言葉に、猿比古はむっつりと黙り込んで俺を睨んだ。
ちくしょ、何眼付けてんだよ。

眼孔の鋭さなら負けねーぞこのやろ....

「美咲」
「....何だよ」

睨めっこしていたら、不意に猿比古が俺の名前を呟いた。
俺はぽつりと返して、再び猿比古を睨む。

「風呂、入ってけば?」
「は」

猿比古の口から出たのは意外な言葉だった。
俺は瞬間呆気にとられて思わず声を上げる。

「何言ってんだよこのハゲ、とうとう頭沸いたか」

俺が猿比古の顔を覗き見ながら言うと、猿は小さく笑った。

「今深夜だぞ?泊まってけよ」
「はぁ....?別にいいっつの、帰る....」
「お前のナリじゃ中坊に見られて深夜徘徊で補導されっぞ」
「んだとこのクソ猿ぅうう!!」

猿比古はそう言うとクツクツと小さく笑い声を漏らした。
俺はその様子に押し黙る。

(本当、面倒臭ぇ野郎.....っ)

経験上、こういう時の猿比古は絶対言い出したら譲らないのは解っていた。
今日だって、どんな理由を付けてでも俺を帰さないだろう。

結局昔から、こういう時に折れてやるのはいつも俺だった。
今回も恐らくそうなるのだろう。

「クソッ....」

それでもただ従ってやんのは何か悔しい。
せめて何か此奴にゲッて言わせてぇ.....。

「!そーだ、猿!」
「ん?」

俺ははっと思いついて、にやりと笑った。
これなら俺のプライドもそこそこ満たされるっつーか。

「猿比古、テメェが俺に尽くして背中流すってんなら....風呂位入ってやってもいいぜ!?」
「....」

俺の言葉に、刮目する猿比古。

ふ、驚いてやがるな。
ナイス名案だろ!

猿比古に俺の世話させる=俺の方が格上
完璧な方程式だ!

「美咲....」
「あーん?まさか出来ない何て言わねぇよなぁ、猿比....こ」

猿比古の表情を見た瞬間、今度は俺の方が刮目しちまった....。

(ア、レ....?)

何で、猿比古こんなに....にっこにこしてんの?

「美咲って....本当」

猿比古のねっとりした声が、耳を犯していく。
目の前には、猿比古の満面の笑顔。

そして猿比古は硬直する俺に優しく微笑むと、口元を嗜虐的に歪めて、囁いた。

「じゃあ俺が、美咲の綺麗な背中、流してやるよ―――」
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