★Text

□貴方は何処に
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※猿美前提


「嘘」

不意にアンナは今まで噤んでいた口を開く。
それに、八田は驚いて目を見開いた。

八田の口から止めどなく溢れていた猿比古への言葉が切れる。

「八田、猿比古の事嫌いなんて嘘」

アンナの声は凛と八田の胸に突き刺さった。
BARの中、アンナの小さな声が反響する。

二人きりのBARに、奇妙な沈黙が訪れた。

「アンナ....悪い」

八田は小さく呟く。
アンナの表情に、八田は自分の感情が彼女に悟られているのだと知った。

八田の胸の奥で、鈍く炎が燻る。

アンナは八田の胸に、そっと手を触れた。
瞬間、八田は脆い所を庇う様にビクリと震えたが、相手がアンナである事を思い出して大人しくなる。

「ダメ」

アンナはそっと目を瞑ると、八田の身体に寄り添った。

「嘘は―――八田が、傷付く」

八田の心臓が、ドクンと脈打つ。

アンナに言われ、八田は息を飲んだ。
痛い所を突かれた自覚に、八田は顔を伏せる。

「八田の心、凄く痛い」

アンナは八田の瞳を覗き込んだ。

八田は漸く、彼女が人の感情を送受するストレインである事を思い出す。

そして、胸を焦がす様な痛みを、彼女にまで共有させた事に気が付いた。

「アンナ、ごめん....俺、何も気ぃ使ってなかったな....」
「いい、八田のせいじゃない」

八田が小さく謝ると、アンナはそっと首を振って微笑んだ。

「ここにいてもいい?」

アンナの言葉が、鈴の音の様に八田の心に届く。

「....ん」

八田は小さく微笑んだ。

「ありがとな、アンナ」
「ううん」

ドクンと、八田の心臓は落ち着いたリズムで脈を刻む。

「俺な....猿比古が何考えてるのか....全然分かんなくてよ」

暫くして、狭い空間に八田の声が響いた。
八田はそっとアンナの頭に手を置いて、その小さな頭を優しく撫でる。

「どうしてかな....彼奴と俺が、てんで別々の方見てて....それで」

同じ景色が、見れないんだ。

八田の声は徐々に小さく震えていく。
泣くのを堪えるような、そんな声だった。

アンナはそんな八田を見て、小さな掌を八田の頬に宛う。

「同じ景色は、見れなくていいの」

不意に、アンナが小さく口を開いた。

「大丈夫―――違うから、美咲と猿比古なの」

アンナの小さな掌は、ゆっくりと八田の頬を撫でて離れていく。

「アンナ....」

八田は瞬間言葉に詰まって、目の前の小さな少女を見つめた。

「大丈夫....二人とも同じ所に立ってる」

アンナは淡く微笑んで八田の身体に手を回す。
八田も、それに答えるように、小さな優しい身体を抱きしめた。

「ちゃんと、猿比古は八田の傍に.....」

トロリとした暖かさに八田は瞬間拳を軽く握りしめる。
唇をきゅっと噛み、必死に震える口端を持ち上げた。

「....ありがとな」

八田は呟いて、熱くなった胸の奥に猿比古の姿を思い描く。

「うん」

アンナは小さく頷き、それから優しく八田に囁いた。

「大丈夫だよ」



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初めてのアンナちゃん(^o^)
アンナと八田は何だかんだ仲良しだといいな。

八田さん強がりな感じするから、問答無用で解ってくれる相手がいたらと思ってたらこんな話に←
弱ってる八田も可愛い(暴)




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