★Text

□さぁ、啼きなさい
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※猿美前提の礼美
※猿比古視点


「伏見君」
「....なんすか」

室長に突然声を掛けられた。
室長は薄い微笑みを浮かべながら、眼前に広げたパズルのピースを指で弄ぶ。

「私はパズルが好きです」
「....そうですか、それが何か?」

それが何だ、心底鬱陶しいんだが。
つーか室長、仕事しろ。

「いえ、ね....何故私はパズルを愛するのか考えまして」
「心底どうでもいいんで帰って良いですか?」
「まぁそう言わずに聞きなさい。聞いて損は有りませんよ」

俺は苛立ちを隠せず舌打ちする。
そんな俺を見て室長は微笑した。

俺は気味の悪い室長の様子に憮然として顔をしかめる。

「思うに」

室長は俺の顔を静かに眺めながら呟いた。

「私はきっと....果ての無い作業をするのが好きなんです」

何だ、ただのマゾか。
って、嘘だろ?

この鬼畜眼鏡がマゾな訳有るかよ。

「....俺は嫌いですけど」
「そうですか、けれど....手に入らないものを求める気持ちならば、君にも理解出来るでしょう」
「....」

何が言いたい。
美咲の事か?

俺は苛立ちを込めて室長を睨んだ。
それにすら、このインテリ眼鏡は微笑んで見せる。

「果ての無いパズルはそれと酷似している」

室長は言葉を続けると、俺の心を探るように目を向けた。

「チッ....解りかねますね」
「そうですか?"手の届かない"筈のものだからこそ、"手が届く"瞬間を求める....私はそう言いたいのですよ」

室長はそう言って、怪しい笑みを漏らす。
本当に、気持ち悪い。

此方の心は全て見透かした様な態度で、自分の手の内は晒そうとしない。

「得難いものを求める事こそ、芸術、学問、或いは遊蕩....それらの本質的価値を定めている根幹では無いでしょうか」
「チッ、知りませんよ、そんな事....」

俺は再び舌打ちして踵を返した。
これ以上この男に構っていたくない。

しかし、室長は俺の退室を許さなかった。
鋭く目を細めると、言葉を続ける。

「待ちなさい伏見君、大切なものを失っても構わないんですか?」
「大切なもの....?」

俺は呟いて、血の気が引く思いがした。

俺の大切なもの何て、一つしかない。

「人間は本能的に、手の届かないものにこそ、手を伸ばしたくなるのかも知れません」

室長は顔面蒼白になった俺を見ると、言葉を続けた。

「....室長」
「手が届かないほど、強く焦がれるものです―――」

―――言うならば、障害が有るほど燃え上がると言うところでしょうか。

室長はそこまで言うと、静かに椅子から立ち上がる。
俺の方へ視線を投げ掛けると、ゆっくりと俺に近付いた。

「伏見君、私の愉悦に付き合って下さい」

室長はにこりと肉薄な笑みを浮かべると、綺麗な顔を嗜虐的に歪める。

「勿論、拒否しても構いません....大切なものを失っても構わないならね」

俺は言葉を失った。

ただ、怯えを含んだ目で室長を見据える。

室長の言葉の意味する所が、何となくだが理解出来てしまった。
しかし、信じたくない。

相手は王だ。
分が悪すぎる。

「私は、ヤタガラスに恋をしました」

室長の言葉が部屋に響く。

「私は八田美咲を手に入れたい」

瞬間、目の前が真っ暗になった気がした。


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続きません←
一応続き有ったんですが室長が鬼畜になりすぎて止めましたorz
 

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