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□愛し子の悪夢02
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※八田視点
※猿比古が何か弱ってる


目が覚めたら、身体が痛かった。
そして徐々に昨日の事を思い出す。

(あぁ、俺....)

猿比古と。

「....っ////」

恥ずかしさから、顔が火照る。
俺は猿比古の下で、散々醜態を晒したんだ。

「っ猿....!!」

思わず呟くと、部屋のドアがキィと開く音がする。
目をやると、扉の向こうに間抜けな面した猿比古が呆然と立ち尽くしているのが見えた。

「み、さき....起きてたのか」

猿比古が呟く。
ドアノブに掛けた手が震えていた。

「っ、起きてたら悪いかよ」

俺は鋭く彼を睨み付けると、ベットから身体を起こそうとして顔をしかめる。

「っ痛ぇ....!」

身体中、痛くて立てない。

「美咲....」

そんな様子を見かねてか、猿比古が俺の傍に来て手を貸してくれた。
まぁ、コイツが元凶だから何とも言えないが....ちょっと紳士的な気がしないでもない。

「美咲、大丈夫....?」

猿比古が少し震えた声で、俺に尋ねる。

「あ"ぁ?大丈夫な訳っ....」

俺は思いっきり怒鳴ろうとして、途中で行き詰まった。

猿比古の顔が、余りにも怯えてる様で。

「....猿?」

俺は目を瞬かせて猿を一瞥した。
何時ものふてぶてしい無表情なのに、何処か違う。

何だか、弱々しい。

こんな猿は初めてみた。

「猿....どうした?」
「は....?どうもしないけど」

俺が聞くと、猿は素っ気なく答えて顔を背けた。
....何だよソレ。

「....どうもしない訳ねぇだろ」
「....」

俺はそっと猿比古の背に腕を回す。
軽く背中を擦ると、猿の身体がぴくりと跳ねた。

「お前何時も頭どうかしてるのに、今は何かどうかしてる感が少ない.....絶対どうかしただろ!」
「どっちだよ.....馬鹿美咲」

猿は俺の言葉を軽くなじると、上目遣いに俺と視線を合わせる。
猿の目がすがる様に俺を見詰めてきた。

「ほんと、美咲って何なの?」

猿は泣きそうな声でポツリと呟く。

「....何で、そんなに何時も通りなの」

猿は呟くと、俺の身体をベットに押し倒した。
俺の身体は浅くベットに沈み込む。

「!?////ちょ、猿っ....」
「何で俺にっ、無理矢理レイプされた癖に、そんな何時も通り何だよ!?」

焦る俺に、猿の悲痛な叫びが突き刺さった。

(....猿)

俺は酷く取り乱した猿の声に目を見開く。
見ると、猿の綺麗な顔は情けない表情に歪んでいた。

「猿比古....」

俺は思わず彼の名を呟く。
そして、急に昨晩の記憶がフラッシュバックして赤面した。

猿比古に何やら変なものを....あぁ、そうだ媚薬って奴を飲まされたな。
それから、抵抗出来ない俺を無理矢理押さえ付けて、猿比古は俺を犯しやがった。

凄く痛くて、恥ずかしくて、俺は昨晩泣いたじゃねぇか。

....なのに、本当に何でだろう。
どうして俺は....こんなに何時も通りでいられるんだろう。

「美咲ぃ....俺の事、き、嫌いになったりしねぇのかよぉ....」

再び猿比古の泣きそうな声が、部屋に響いた。
その言葉に、俺はビクリと身体を震わせる。

「き、嫌いになる訳ねぇだろ!!この馬鹿猿!」
「....っ美咲」

思わず叫んで、俺はハッと我に返った。
何だか、まるで告白したみたいで落ち着かない。

「い、いや....確かにお前は最悪だしよ....まじクソ猿だけど」

恥ずかしくなり急いで付け加えた。
何でだろう、何か俺....猿比古を妙に意識してる....ような。

「美咲、美咲は....俺を嫌いにならない?」

照れ隠しに俯く俺に、猿比古は子供の様に尋ねる。
何だコイツ、こんな弱々しい奴だったっけ。

「美咲、俺を嫌わない?」
「っ.....////」

猿は何時もの憎たらしい様子何か何処へ忘れてきたのか、すがる様に俺に聞いた。
その様子に不覚にも、可愛いとか、思っちまって。

「嫌わねぇよ....////」

俺は頬が熱くなるのを感じながら呟いた。

そして俺は余計な事に気付いてしまう。

(あぁ、そっか....俺、怒ってねぇんだ)

猿にあんな事されたのに。
俺、怒ってねぇし、全部許しちまってる。

「.....っ/////」

俺は恥ずかしさから一層顔を赤らめた。

(俺、猿にあんな事されたのに、あんまり、い....嫌じゃ無かったんだ)

何だこれ?
何で?

どきどきする。
心臓が煩い。

「美咲....」

そっと猿比古の顔を見上げれば、切ない声で名前を呼ばれた。

それだけで、俺の心臓はきゅっと痛くなる。

「さる....ひこ」

どうしたんだよ、俺。
猿相手に、何で。

「美咲....俺、あんな事したのに.....怒ってないの?」
「....怒ってねぇ」

だって、嫌じゃなかったから。

猿比古と....だから?

(何だよ、これじゃあまるで、俺....!!)

猿の事、好きみたいじゃねぇか....!!

俺はいたたまれなくて、猿の顔をまともに見れなかった。
今猿の顔見たら、有り得ない事を口走ってしまいそうだった。

「どうして?―――美咲?」

ぎゅ、と猿の腕が俺の身体を抱き締める。
猿は俺の耳元に唇を寄せると、そっと囁いた。

「っ、それは」

言えない―――

好きだから、何て、認めない―――

「美咲、俺....美咲があんまり優しいとさぁ....期待しちゃうじゃねぇか」

不意に、猿比古の切ない声が聞こえて俺は顔を上げた。

「猿....」
「美咲、俺の事....本当は気持ち悪いと思ってんだろ?」

猿の目が切なく歪む。
俺は言葉を失った。

「お前は尊さんが好きなんだもんなァ....」

猿比古の顔にはありありと嫉妬と、寂しさが浮かんでいて、俺は息を飲む。

「俺なんかに、初めて奪われて....本当は凄く惨めなんだろぉ....!?」
「は....」

俺は、壊れたように叫ぶ猿比古をただ驚いて見上げた。

「解るぜ、悔しいんだろ?惨めでしかたねーからさ、全然平気って面してんだろ美咲ぃ!?」

猿比古の瞳が、涙に潤む。

「美咲は俺の事なんて全然見てねぇもんな!!俺が、どれだけお前を見てるかも....知らねぇでよぉ!!」

猿比古の頬に、涙が伝う。

俺はその姿を見て、猿比古の事をまるで駄々を捏ねる子供みたいに感じた。

そして、その姿を、愛おしく思った。

(あぁ、もう限界だ――――)

「だいたい美咲は....っ」
「あぁあ!!煩ぇ!!」

俺は猿の言葉を遮って叫ぶ。
猿比古は俺が急に大声を出したからか、ぴくりと震えて黙り込んだ。

「俺、猿の事好きかもしんねぇ!!だから昨日ヤりやがったのも許す!!これでいいだろクソ猿!!」
「は....!?」

あぁ、言っちまった。

俺は肩で息をしながら、猿比古をギロリと睨み付けた。
対する猿比古は妙に毒気を抜かれた様な顔をして俺を見詰めている。

「美咲、今の....もう一回言って....?」
「は!?////」

不意に、猿比古が震える声で言った。

もう一回?
冗談じゃねぇよ!

「っと、昨日、猿が盛ったのは....ゆ、許してやるっ!!」
「そこじゃない」

「っぐ....////クソ猿!!」
「それじゃねぇよ!!最初の....!!」

見ると猿の目には涙がいっぱい溜まっていて、それが何だか綺麗だった。

猿の掌が、俺の頬に添えられる。
俺は再び身を震わせた。

(っ、猿の....手....)

「猿比古....俺、猿比古の事、好き....かも」
「っ!!////」

俺が顔を真っ赤にしながら言うと、猿比古も綺麗な顔を歪めて儚く微笑んだ。

「美咲」
「っ何だよ」

そして、俺にそっとキスをする。

「!?/////」
「美咲、愛してる....」

猿比古は本当に優しく微笑んで俺に言った。
本当に、本当に幸せそうに。

「美咲ぃ....これ、夢かな?」
「....は、何言って」

「いや、夢でもいい」

猿比古はそう呟くと俺を再び抱き締めた。
猿比古の体温が、触れた身体ごしに伝ってくる。

「美咲....夢なら覚まさないで....」
「猿....」

猿比古は切なく呟いた。
俺は堪らず、彼の髪にそっと指を絡めて撫でてやる。

まるで、子供のような人。

「馬鹿猿、夢じゃねーっつの....ちゃんと現実だ....」

俺は俺よりも背の高い猿比古の身体を抱き締めると、彼の額にキスをする。
猿の事が、可愛くて仕方なかった。

「うん、美咲....夢じゃ、ないんだよな」

猿比古はもう一度呟いた。そして、微笑む。

(....猿比古)

俺は知っていたのかも知れない。
猿比古が、本当は誰より脆くて、純粋で....まるで子供の様な男だと。

だからこそ、こんなに彼が愛しいのか。

俺がそっと彼の頬に手を添えると、愛おしそうにその手にすがる。
優しく目を細めると、猿比古は小さく呟いた。

「俺の....悪夢は終ったんだな」

そして、猿比古は俺の胸に顔を埋めると、声を押し殺して泣いた。


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二時間後

「でもさ美咲ぃ〜....?」
「あ?何だよクソ猿キモい」

「お前寝言で尊さんの名前呼んでやがった。一体どんな夢見てたんだよ」
「はぁ!?覚えてるわけねぇだろそんなもん!?」

「じゃあ許さねぇ美咲お前は俺に内緒で尊さんに会いやがったんだ、夢の中で!!」
「何コイツ面倒臭ぇええ!!つーか、さっきまで生まれたてのバンビみてぇだったのに何か復活してやがる!」

「美咲が抱き締めてくれたからな、美咲の匂いで元気に....」
「にっ、匂いとか言うな馬鹿!!////」

「元気に、下が」
「下ァ!!?」

「伏見、ダモクレスの剣(下)ばっと...」
「言わせねーよ!!////」

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