女王と愚者
□2段目
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「白恋中の吹雪か……いったいどんなやつなんだろうな」
期待を込めた円堂の声に優梨愛も楽しそうに笑った。
しかしそんな彼らとは裏腹に染岡は顔を曇らせる。瞳子に対する苛立ちを隠す様子もない。
染岡の様子に気づいた優梨愛は小さな声で円堂に話しかけた。
「ねえ、彼何かあったの?」
「あー、こないだまでさ、もう1人エースストライカーがいたんだよ」
円堂が話し始めてすぐに、思い出したように優梨愛は呟いた。
「豪炎寺修也、だっけ」
驚く円堂に優梨愛は声を潜めて笑った。
「言ったでしょ、あたし半年だけだけど帝国にいたって。
そこであいつに調べさせられたんだよね、障害となりうる選手について」
心底うんざりといった様子でため息を吐いた優梨愛は、何度か瞬きをして表情を改めた。
「そういえば、結局なんで有人が雷門にいるの?」
前方に会話を投げかけると彼は振り向かず静かに事情を話した。
優梨愛は無言のままその話を聞いていたが、次第にきつく拳を握り始める。そんな優梨愛の手を円堂は優しく包んだ。
雪景色の広がる中、古株の声に視線を向けた。
長いことバスに揺られていたが、ようやく目的の白恋中に着いたのだ。
中へ入ると雷門イレブンは大歓迎された。
FFで優勝した彼らを知らないはずがないのだ。
本来の目的を忘れかけている円堂に代わり瞳子が声をかけた。
「ところで、吹雪士郎くんは?どこにいるのかしら」
「吹雪くん?
今頃スキーじゃないかな。今年はジャンプで100M目指すって言ってたもん」
「いや、きっとスケートだよ。3回転半ジャンプができるようになったって言ってた」
「おいらはボブスレーだと思うな。時速100kmを超えたって言ってたよ」
「スキーにスケートにボブスレー……おまけに熊殺し?」
それはいったいどんな奴だと想像のつかない風丸など気にも留めず円堂と優梨愛は盛り上がる。
「そんなにスポーツのできる奴なのか!」
「早く会いたいなぁ。きっとサッカーもすごく上手いんだよね!」
「優梨愛が抜かれるくらいかな?」
「守が止められないくらいかな?」
興奮を抑えられずに体を震わす2人を風丸と鬼道は呆れたように眺めていた。
するとそこへ例の吹雪士郎が帰ってきたようだ。
緊張した面立ちで立つ円堂の服を掴み、無意識かさり気なく彼の後ろへ隠れる。