小説

□果たせぬ誓いを誠に誘え
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 序章





誓うよ・・・。


どれだけの時が流れようとも、





必ず、皆の元に帰るから。





お前達がどれだけ変わろうが、





必ず見つけ出して、迎えに行くから・・・・。








  必ず・・・・。








     必ず、だ・・・・。















  ***





 チュンチュンチュンッ





昌「・・・・・・・ゆ、め?」



昌久は未だにボーッとする頭のまま上体を起こす。


その時、頬に流れる大粒の雫の存在に気づいた。


寝ながら泣いていたのだ。


だって見ていた夢が泣きたくなるくらい優しくて暖かな記憶の欠片だったから。


ずっと、ずっとこの魂に刻み付けた誓いだったから。



昌「・・・必ず、果たす。
 必ず、迎えに行くから・・・・・・」



まるで自分自身に刻み付けるようにそう呟いた昌久はゆっくりとベッドから起きた。


外はまだ日が昇ったばかりで部屋には暖かな光を齎す。


その光と一瞥すると昌久はクローゼットにかけてある制服に手をかけた。


その制服をするすると着替えると時計で時間を確認する。


時計の針は学校に行くにはまだ早過ぎる時間帯を指していた。


しかし昌久は特に気にする事もなくカバンを持って部屋を出た。





露「あら、昌久。
 おはよう。早いのね」


昌「おはようございます。母上」



一階のリビングに向かうと母親である露樹が朝食の準備をしていた。


そんな母に昌久は挨拶を交わすとそのまま玄関へと向かった。


露樹も当たり前のように昌久の後を追う。



露「もう学校に行くの?」


昌「はい。
 生徒会の仕事がありますので」



トントンと靴を履いた事を確認すると玄関に立つ露樹に向き直った。



昌「それでは行ってきます」


露「えぇ、行ってらっしゃい。
 お弁当は後で久浩に持たせますね」


昌「分かりました」



それだけ言うと昌久は家を出た。


朝の爽やかな風を頬に受けながらゆっくりと歩き出した。


背後の家の屋根の上から複数の視線を感じながら・・・。










  ***





朱「・・・今日もこんなに早くに学校に行くのか」


天「生徒会の仕事がそんなに大変なのね・・・」


勾「仕方ないさ。
 聞くところによるとあの子達の学園は生徒の自主性を重視していて、
 その生徒の頂点に立つ生徒会は多忙の極みらしいからな」



そう屋根の上に立つ朱雀、天一、勾陣はじっと昌久の背中を見つめていた。


そう、昌久にはあの歳にして様々な肩書きを持っていた。


一つは高校に入学したと同時に就任した生徒会長としての肩書き。


昌久と久浩が通う高校、"藤原学園"は数多くの資産家の子息ご令嬢が通う金持ち校。


そんな未来の日本を背負って立つ生徒達の自主性を育む為に、

生徒の自主性を重んじ、学園行事などの運営は全て生徒の手で行う。


その運営の要となっている生徒会は必然的に特別優秀な生徒が入るのだ。


そんな中で高1でそれも新入生が生徒会長に就任するのは異例中の異例とも言われる。


そんな中でも昌久は見事なリーダーシップを発揮し数多くの行事を成功させてきた。


今では歴代最高とも言われる生徒会長にまで成長した昌久は本当に多忙なのだ。



勾「昨日も夜遅くまで生徒会の仕事をしていたみたいだしな・・・」


天「お体が心配ですね」


朱「だが、あいつは俺達の言う事を聞くような奴じゃないだろ。
 この前も見かねた太裳が休むように言ったらしいがのらりくらりと躱されたらしい」


勾「・・・・頭が良すぎるのも考えものだな」



日頃から寝る暇すらままならない生活を中学の頃から強いられている昌久。


そんな昌久を安倍家の家族は勿論、十二神将も心配しているのだ。


しかしこちらがどれだけ言っても幼い頃から神童だと呼ばれていた昌久の話術に躱されてしまう。


あの狸ジジイである晴明ですらぐうの音も出ないほど言い負かされたのだ。



勾「あいつにも・・・幸せになって欲しいのだがな・・・・・」



そう。


どれだけ優秀で将来有望だと世間から言われても安倍家ではそうはいかない。


安倍家は平安の時から続く由緒正しい陰陽師の家系だ。


勉学も勿論だが何よりも霊力の強さが重要になってくる。


しかし昌久には霊力というものがそこまで強くなかったのだ。


それどころか妖が放つ妖気や瘴気を長時間浴びると体調を崩してしまう。


過去に一度、それで生死の境を彷徨ったほどなのだ。


最近では神将の神気も体に障るため神将達は昌久の傍に近寄れない。


もし近くに行ったとしても5分以上は傍にいられないのだ。


昌久もそんな自分を受け入れて陰陽師としての道を諦めた。


家族が仕事の話をする時はすぐに部屋に戻るほどの徹底ぶりだ。


そんな昌久の存在も分家の者達は気に食わないのだ。


力のない昌久がどうして本家に居座っているのだ、と・・・。



実際、過去に何度も昌久に対して呪いの言霊を吐き続けている。


幼い昌久がどれだけ傷ついているかも考えずに・・・。


そんな昌久を守ってきたのは晴明を始めとした昌久の家族だった。


しかしそれすらも限界がある事を誰もが知っている。


それでも願ってしまう。


幼い頃から人の悪意に囲まれて生きてきた昌久だからこそ幸せになって欲しいのだ。


それが、家族とそして十二神将達の願いだった。
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